労災保険

長時間労働問題!強化される過重労働対策

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2016年3月24日、日本経済新聞は政府が企業の長時間労働への監視を強める方針だと報じ、企業は過重労働対策について、真剣に取り組まなくてはならない時代となりました。

労働基準監督署の立ち入り調査の対象となる残業時間を、現在の100時間から80時間に引き下げるよう検討しているとのことです。

違法な労働時間により書類送検となった会社も続々と報じられています。
こうした背景より、長時間労働の取り締まりが厳格化されていると言えるでしょう。

会社の従業員に残業をさせる場合は36協定の届出が必ず必要であることは別記事(36(サブロク)協定とは何か?知っておきたい基礎知識)でお伝えいたしました。 

では、法で定められている労働時間を違反した場合、どのような罰則が待っているのでしょうか?
そして罰則の対象者はだれになるのでしょうか?
政府の動きと合わせて、実際に取り締まりを受けた企業の事例を紹介していきます。
ぜひ参考にしてください。

1.労働時間の違反は労基法第32条により処罰される

労働時間の違反は労基法第32条、休日労働の違反は労基法第35条違反として「6ヶ月以下の懲役、または30万円の罰金に処せられます。
さて、この罰則の対象者はいったいだれなのでしょうか?

1-1.罰則の対象者は上司及び会社

処罰の対象は「労基法上の使用者」とされています。 

この使用者とは、労基法第10条により「事業主、又は事業の経営担当者、その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう」と定義されています。

つまりは、会社だけではなく直属の上司も罰則の対象となります。

なお、労働者本人は罰則の適用にはなりません。

ここで注目すべき点は「直属の上司」というところです。
会社の経営陣のみならず、現場の指揮監督をとる立場の人間にも罰則は及ぶのです。

あなたに一人でも部下がいる場合、あなたもその罰則が及ぶ可能性があるのです。
また、違法な長時間労働に関する処遇は、このような「6ヶ月以下の懲役、または30万円の罰金」といった法的なものばかりではありません。

1-2.悪質な企業はブラック企業として認定・公表される

飲食業・小売り業などは、どうしても長時間労働になりがちで、いわゆるブラック企業が多く存在し、問題が深刻化しています。

厚生労働省はこうしたブラック企業対策のひとつとして、従業員に過重な長時間労働を強制したり、残業代を支払わないような違法行為を繰り返している企業に対して、ハローワークから求人の締め出しを行ったり、そのブラック企業の認定・公表制度を整えたりして、厳しく取り締まる方向にシフトしています。

なお、厚労省によると公表の対象となるのは

1年程度の間に3か所以上の支店や営業所で労働時間や割増賃金に関する労働基準法違反があり、時間外労働が月100時間超となる労働者が多数に上るといった悪質な企業

 とされており、すでにブラック企業として報道された企業もあります。

長時間労働繰り返した「ブラック企業」を初公表
違法な長時間労働を繰り返したとして、厚生労働省は19日、棚卸し代行業のエイジス(千葉市)に是正勧告を行ったと発表した。
違法な長時間労働を繰り返す大企業の名前を行政指導の段階で公表する新基準が昨年5月にできており、今回初めて公表された。
厚労省によると、同社の社員は約700人で、スーパーなどの小売店が行う帳簿の数量と実際の在庫を突き合わせる棚卸し業務を代行している。千葉県などにある同社の事業所4か所で、計63人が1か月あたりの法定労働時間を100時間超えて働いていたとして、昨年5月以降、4回の是正勧告を受けていた。
同社は「指導を真摯(しんし)に受け止めている。長時間労働削減のため、業務の効率化を進めたい」とコメントした。
引用: 読売新聞

厚生労働省の公表は、その企業にとって大きなイメージダウンとなってしまいます。

実際、この公表となったエイジスは、報道後株価に少なからず影響を与えました。
いわゆる、ブラック企業は離職率が高く、年中、人材を募集せざるを得ないのが現状です。

こうした現状の中、ハローワークの締め出しなどはそうした企業の生命線である人材の流入を止め、さらに残っている人材の負担増から、さらに人材の流出の速度を早め、大きなダメージを与えます。

体力のない企業は、すぐに事業が行き詰まることが容易に予想できます。

2.「過重労働撲滅特別対策班(通称:かとく)」の存在

ブラック企業対策の一環のひとつとして、平成27年4月1日に、東京労働局と大阪労働局に、「過重労働撲滅特別対策班(通称:かとく)」が設置されました。

この「かとく」は、脱税捜査を専門に取り扱う国税局査察部が「マルサ」といったスペシャルチームと同じく、長時間労働などの労働法違反を取り扱う専門のチームです。

現在のところ設置されているのは東京と大阪のみです。

しかし、長時間労働が大きな社会問題となっていけば、今後は全国に設置されていく可能性があります。

2-1.「かとく」摘発事例の第一号はABCマート

靴の専門店チェーンのABCマートや同社役員、店舗責任者などが2015年7月2日、労働基準法違反で労協労働局に書類送検されました。

ABCマートは従業員に月100時間前後という違法な長時間残業をさせていたとされていました。

書類送検を行う前にも、東京労働局は幾度となくABCマートに対して指導や勧告を行っていましたが、改善が見られなかったため、書類送検となりました。

報道でわかる範囲で、ABCマートに労働局の指導が入った様子をまとめてみました。

ABCマート 
従業員数:約7500名 売上高:約2000億円 店舗数:約800店舗
時期 指導内容
H.23~H.25 労働局が16店舗に改善指導をした
H.25 労働局がABCマート本社に3回改善指導を行った
H26.8月 ABCマート側は全店舗で違法な長時間労働を解消したとしていた
しかし、実際のところ36協定の届け出の不備など改善しきれていない状態であった
H27.7月2日 労働基準法違反の容疑で役員などが書類送検される

このように政府がABCマートの長時間残業を摘発したことは、ブラック企業に対して、指導や是正勧告を甘く見るな!最悪の場合は刑事処分だぞ!という政府の方針の象徴と言えるでしょう。

2-2.「かとく」の摘発は現在もなお続いている

ABCマート以降も、続々と「かとく」の摘発は続いています。
ABCマートの一件は、ただの政府の見せしめパフォーマンスだったというわけではありません。

ドン・キホーテ書類送検=違法な長時間労働疑い―東京労働局
大手ディスカウントストア「ドン・キホーテ」(本社・東京都目黒区)が従業員に違法な長時間労働をさせたとして、東京労働局過重労働撲滅特別対策班(通称かとく)は28日、労働基準法違反容疑で法人としての同社と支社長ら8人を東京地検に書類送検した。
引用: 時事通信

 

「まいどおおきに食堂」のフジオフードシステムと店長ら書類送検 長時間労働と賃金未払い容疑
「まいどおおきに食堂」や「串家物語」などの飲食店を運営するフジオフードシステム(大阪市北区、ジャスダック上場)が従業員に違法な長時間労働をさせ、残業代の一部を支払っていなかった疑いが強まったとして、大阪労働局は27日、労働基準法違反の疑いで、法人としての同社と店長ら16人を書類送検した。
書類送検容疑は平成26年1~3月、府内と京都市内の計17店舗で働く正社員とパート計19人に対し、時間外労働(残業)の労使協定の限度時間を、最大で月88時間超えて労働させた。さらに、このうち正社員2人については、割増賃金(残業代)計約27万円を支払わなかったとされる。
正社員の労働時間は、上司の店長や地域マネジャーが実際よりも短くなるよう改竄(かいざん)していたという。
引用: 産経west

このように続々とかとく発足後、摘発事例が報道されています。

2-3.労基署の指導を無視しないことがなによりの対策

このようにかとくに摘発されてきた企業を列挙してきましたが、この企業らはなにも1発で摘発されたわけではありません。
2-1でABCマートの顛末を時系列で紹介した通り、労基署による指導が何度も何度も入っていました。
この指導を無視したことにより、ついに労基署が本気を出したのです。

今一度、あなたの会社の労働時間は適正であるのか見直しを行ってみましょう。
そして最悪の事態を避けるためにはあなたの会社に労基署の指導が入った場合、直ちに指導に従うことがなによりの策といえるでしょう。

では、そもそも政府主体となり、このように労働時間を厳守するような時代の流れになったのはなぜなのでしょうか?

3.過重労働が引き起こすものは過労死

厚生労働省では、平成13年に脳・心臓疾患に関する労災認定基準を改正し、認定にあたって長期間に及ぶ疲労の蓄積に関しても考慮することとしました。

それに併せて、時間外・休日出勤の労働時間と脳・心臓疾患発症リスクの目安も下記のように示しています。

過重労働対策

3-1.増え続ける精神疾患による労災支給

また近年、精神疾患いわゆる「心の病」を発症する人が増加しています。
2014年度の精神障害の労災請求件数と支給決定件数はともに過去最多になりました。

精神障害請求推移

厚生労働省 : 平成26年度「過労死等の労災補償状況」 から抜粋

業務と発症の関連を判断する時間外労働の基準は「発症前1ヶ月間におおむね100時間」または「発症前2ヶ月ないし6ヶ月にわたって、1ヶ月あたりおおむね80時間」とされています。

このような労災を未然に防ぐといった理由から、冒頭でお話しした「80時間立ち入りライン」という構想が出来ました。

3-1.サービス残業が増えるだけという指摘も

実際問題として、表面上残業をしていなければ良い、何も今までとは変わらないという声も多く上がっています。

ただ、「過重労働撲滅特別対策班(通称:かとく)」の発足などから考慮すると、今政府が本気になって対策に取り組んでいると見てよいでしょう。
ネット上にはブラック企業に一泡吹かせる方法が数多く乗っています。
またABCマートのケースからみても、膨大な労力を使い刑事処分に追い込んでいます。

法令を無視し続けていると、いつか痛い目に遭う日がきます。

3-2.安全配慮義務違反には多額の損害賠償責任が生じる

過重労働を放置して過労死を招いてしまった場合、会社には安全配慮義務違反などによって、損害賠償請求が生じます。

過労自殺、遺族の勝訴確定 ニコンなどの上告退ける : 日本経済新聞
ニコンの工場に派遣されていた業務請負会社「アテスト」(名古屋市)の元社員、上段勇士さん(当時23)が自殺したのは過重労働による鬱病が原因だとして、母親ののり子さんが両社に賠償を求めた訴訟の上告審で、最高裁第2小法廷(千葉勝美裁判長)は1日までに、両社側の上告を退ける決定をした。計7058万円の支払いを命じた二審判決が確定した。

この報道はまだ記憶に残っている方も多いのではないでしょうか?

この亡くなった方は窓のないクリーンルームなどで昼夜二交代制勤務(九時間四十五分)を続け、うつ病で体調を崩しました。
自殺直前には十五日間連続勤務もあったそうです。

このように長時間労働は、このように人の心やその人の命自体までも殺してしまうのです。
もっと安全配慮義務の判例について詳しく知りたい方はこちらの記事もご参照ください。
【安全配慮義務違反の判例でわかる会社と従業員のホンネ】

大前提として労働基準法は

「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」 (労働基準法1条1項)

という土台に基いて、作られています。
罰則を受ける受けないではなく、従業員を一人の人間であることを考えて会社の運営をしていくのは人としても法律的にも当たり前のことなのです。

まとめ

労働時間の違反の罰則は、会社だけでなく直属の上司にまでも及びます。

俺はサラリーマンだし関係ないねとは済まされないのです。
今、過重労働に対して世の中は厳しくとりしまる方向にシフトしています。
企業も真剣に対策に乗り出さなくてはいけない時期に来たと言えます。

36協定の届出不備や、協定内容の違反で続々と罰則を受けている企業が後をたちません。
今までは労基署の指導・是正勧告で済んでいたかもしれませんが、今後は刑事罰に問われる可能性が大きくなることでしょう。あなたの会社の労働時間は適切に管理されているでしょうか?
今一度、確認してみてください。

適正な労働時間について、別記事:36(サブロク)協定とは何か?知っておきたい基礎知識もぜひご参照ください。

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