労災保険

労災で症状固定と診断される前に知っておきたい基礎知識

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労災事故により症状固定と医師から診断されたものの、その後の補償を知っている方は少ないのではないでしょうか?

自分では治っていないと思っているのに、症状固定と判断され、治療は終わりです!と言われてしまい、今後の仕事や生活のことが不安と心配を抱えている方も多くいらっしゃいます。

しかし、症状固定になったあとでも、労災保険に申請することによって、年金や一時金をもらい治療やリハビリができることがあるのです。
症状固定後の補償を知り、後遺障害の申請をスムーズに行うことで、その不安を解消することができます。

今回は、症状固定後にもらえる補償や金額、その流れをお伝えします。

1.労災で症状固定後にもらえる補償がある

医師の診断により、これ以上の医療効果が期待できなくなり症状固定と判断された場合は、労災の障害給付に切り替えられることがあります。

この障害(補償)給付とは、症状固定となり障害等級表に該当するような障害が残ったときに障害補償給付支給請求をする事ができ、一般的に後遺障害の補償となります。

この場合、治療費・休業補償は終了し、後遺障害の年金や一時金がもらえます。

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1-1.障害(補償)給付の補償内容

障害等級1級〜7級の場合は、年金として毎年もらえます。
障害等級8等〜14級の場合は、一時金となり、一度だけもらえます。
補償される金額は、給料・ボーナス等や障害等級により異なります。

障害等級 障害(補償)給付 障害特別支給金 障害特別年金 障害特別一時金
  給与基礎日額   算定基礎日額 算定基礎日額
第1級 年金 313日分 一時金 342万円 年金 313日分    
第2級 年金 277日分 一時金 320万円 年金 277日分    
第3級 年金 245日分 一時金 300万円 年金 245日分    
第4級 年金 213日分 一時金 264万円 年金 213日分    
第5級 年金 184日分 一時金 225万円 年金 184日分    
第6級 年金 156日分 一時金 192万円 年金 156日分    
第7級 年金 131日分 一時金 159万円 年金 131日分    
第8級 一時金 503日分 一時金 65万円     一時金 503日分
第9級 一時金 391日分 一時金 50万円     一時金 391日分
第10級 一時金 302日分 一時金 39万円     一時金 302日分
第11級 一時金 223日分 一時金 29万円     一時金 223日分
第12級 一時金 156日分 一時金 20万円     一時金 156日分
第13級 一時金 101日分 一時金 14万円     一時金 101日分
第14級 一時金 56日分 一時金 8万円     一時金 56日分

給付基礎日額とは・・・

仕事中や通勤中にケガや死亡の原因となった事故が発生した日、または医師の診断によって疾病が確定した日の直前3ヶ月に支払われた給料(ボーナス・臨時の賃金を除く)をその日数で割った1日当たりの給料

算定基礎日額とは・・・

仕事中や通勤中にケガや死亡の原因となった事故が発生した日、または医師の診断によって疾病が確定した日以前の1年間に支払われた特別給与(ボーナスなど)の総額を365で割った金額(臨時の賃金を除く)

労災保険からどのくらいの障害補償がもらえるかをご確認ください。
障害等級1級〜7級に該当した場合、年金として支給され、生活の不安も解消できます。

1-2.症状固定後の治療費、休業補償はどうなるの?

医療効果が期待できない場合は、「治癒」(症状固定)となり、障害等級表の身体に障害が残った場合の条件に当てはまらない場合、治療費や休業補償はもらえなくなり、残念ながら労災の補償は終了されます。

ただし、症状固定と診断されていない状況では、引き続き治療費・休業補償の支給がされます。
医師の判断によりますから、症状固定の時期は慎重に診断してもらうことが重要です。

1-3.障害(補償)給付の請求手続き

身体に一定の障害が残った場合は、

「障害補償給付支給請求書」(様式第10号)
または、「障害給付支給請求書」(様式第16号の7)

に医師の診断を記入してもらい労働基準監督署に提出します。
医師の診断と労働監督署等によって判断され、障害等級が決定し補償されます。

2.症状固定とその判断基準

身体に障害が残り、症状固定後の労災保険の流れは把握できたでしょうか?
では、その症状固定について理解を深めましょう。

2-1.症状固定とは

傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行っても、その医療効果が期待できなくなった状態をいい、この症状を労災保険では「治癒」(症状固定)といいます。(出典:厚生労働省)

つまり、労災保険でいう「治癒」(症状固定)とは、今後治療の効果がなくなり、リハビリをしてもこれ以上の改善はないという状態が継続していることで、完全に治ることではありません。

「治癒」(症状固定)といっても、完治したという意味でないことに注意してください。

2-2.症状固定の判断基準は医師が決定する

ケガの場合
傷口が治り、その症状が安定し医療効果がそれ以上期待できないとき
病気の場合
症状が急に起こることがなくなり、慢性的な症状があっても、その症状は安定し医療効果がそれ以上期待できないとき

医師の診断により「症状固定」と判断されます。
いつの時点で、症状固定にするかはあなた(患者)が判断することでなく、そのケガや病気の状態によって変わってきます。

次項では、身体に重い傷病が長く続く場合で症状固定になっていないときには、ある一定期間を迎えると労災保険に新たな手続きが必要になってきます。

3.治療継続1年6ヶ月経過後に傷病年金の申請をする

傷病(補償)年金とは、仕事中や通勤中が原因となったケガや病気の治療開始後今回のケガや病気が治っておらず、1年6ヶ月を経過した日またはその日以後に、その障害の程度が傷病等級表の1級から3級に該当する場合に労災から補償される制度です。

その後、治療費は引き続きもらえますが、休業補償はもらえません。
 重い傷病な状態の場合、休業補償に代わりとして年金・一時金がもらえます。

しかし傷害等級表に非該当の場合は、今までどおり治療費・休業補償は貰い続けられます。

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3-1.傷病(補償)給付の補償内容

傷病等級 傷病(補償)年金 傷病特別支給金(一時金 傷病特別年金
第1級 給付基礎日額の313日分 114万円 算定基礎日額の313日分
第2級 給付基礎日額の277日分 107万円 算定基礎日額の277日分
第3級 給付基礎日額の245日分 100万円 算定基礎日額の245日分

3-2.傷病(補償)給付の請求手続き

 ケガや病気の治療開始後から1年6ヶ月経過しても治っていないときは、その1ヶ月以内に、「傷病の状態等に関する届」(様式第16号の2)を労働基準監督署に提出し、判断をしてもらいます。

次項では、企業側の経営者や人事担当者の方々は、労災事故のため長期で休業している従業員さんへの対応は、どのように考えるといいのか?最後に雇用に対する説明をしていきます。

4.労災が打ち切り。症状固定後に従業員は解雇できるの?

業務上負傷し、または疾病にかかり「療養のために休業する期間」及び「その後30日間は解雇してはならない」と労働基準法で定められています。

つまり、ケガや病気で休業中と症状固定(治癒)し30日を経過したあとは、解雇することは可能とされています。
しかし、今回のケガや病気の治療に専念しているとき、つまりこの基準に該当しない場合において解雇すると、当然に不当解雇となってしまいます。

このような場合、会社と従業員の関係が悪化すると、安全配慮義務違反や不当解雇などで、損害賠償を会社に訴えることも想定できます。

そのリスクを回避するために、保険会社で使用者賠償責任・安全配慮義務違反や雇用慣行賠償等の民事賠償に対応できる保険で、企業防衛している会社が多いのも事実です。

このような労災保険で対応できない民事賠償が右肩上がりに増加している時代です。

ここでひとつ判例をご紹介しましょう。

17歳のアルバイトで草刈作業中、他従業員の草刈機が飛散させた石の遺物が 左目に当たり失明した。
障害等級8等級 左目失明 会社側の安全配慮義務違反で 4,794万円の損害賠償額   

会社が安全配慮義務違反とされた理由は危険予知なしゴーグルやマスクの着用を指示せず、『足を切る可能性』のみ口頭で注意だったからです。

賠償件数の増加だけではなく、賠償金額も高額化しています。
企業規模に関わらず、従業員を一人でも雇用している会社は、重要な補償だと言えます。

しかし訴訟になると会社は、企業イメージに響きますから、従業員を解雇するのではなく職場変更(事務職や軽度作業)を行い、納得させる方法をとるべきです。

雇用を確保し、従業員の生活を守るという会社は多くあります。

まとめ

症状固定とは、ケガや病気の治療の効果がなくなり、リハビリをしてもこれ以上の改善がないということで治療の必要がなくなった状態で、完治したという意味ではないこと、その判断基準は、医師の診断により決められることで、ケガや病気の状態ごとに変わります。

症状固定となると治療費や休業補償はもらうことができません。

よって、医師の判断によりますから、慎重に診断してもらうことが重要です。
症状固定で診断され身体に障害が残った場合は、障害(補償)給付として補償されます。
後遺障害に認定されると、障害等級によって年金(1級~7級)と一時金(8級~14級)のどちらかをもらうことができます。
治療中で症状固定せず、ケガや病気の治療開始後1年6ヶ月を経過した場合は、傷病(補償)給付の申請をします。
その障害の程度が傷病等級の1級~3級に該当すると年金と一時金をもらうことができます。

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