労災保険

労災による怪我や病気が再発した時のために抑えておくべきポイント

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

あなたは労災による怪我や病気が一度治った後、再発してしまった場合に補償を受けられる可能性があることを知っていますか?

基本的に労災保険では医師や労基署の判断により、治療を続けても改善の見込みがないときも『治った』とされます。(労災保険では治癒や症状固定と言います)
そして、特に後遺障害などが残らないようであれば、労災保険からの補償は終了してしまいます。

しかしながら、一度は落ち着いていた症状が時間の経過などによって悪化してしまうこともあるでしょう。
このような時に、「やっぱり治っていなかったのかな?」「補償を受けられるのだろうか?」と悩むことがあるかもしれません。

実は、そのような時に労災保険で定める基準をクリアすることで、補償を再度受けられることがあるのです。
この記事では、再発が認定されるための基準や、再発の申請方法を紹介していきます。
一度補償が終了してしまっているものの、未だ不安が残っている方、症状が再発しており悩んでいる方は、是非お読み下さい。

1.再発が認められるための3つの条件

労災保険では以下の3つの条件を全て満たす場合に、「再発」として補償を受けられることが出来る、と定めています。

1.悪化した症状と、当初の怪我や病気との間に因果関係があること

例:通勤中に転倒し、膝の靭帯を断裂してしまった。
復帰をしたが、仕事をしてく中で繋いだ靭帯が緩んでしまい、足をうまく動かせなくなってしまった。

2.一度治った時の状態から見て、明らかに症状が悪化していること

例:仕事中に手の指を切ってしまった。治療を続け、治癒と判断されたが、数カ月後に関節が固まり、指が全く動かなくなってしまった。

3.治療を行うことで悪化した症状が良くなる、と医学的に認められること

例:病院を受診したときに、医師よりリハビリ通院を続ければ、今より状態は良くなると言われた。

当然のことながら、通常の労災申請と同様に、認定は医師の意見をもとに労基署が判断をします。
そのため、個人の判断で「条件を満たしているから再発だ」と考えてしまわないように、注意が必要です。
再発を疑う症状が出た時は、あなた自身で判断を行わず、速やかに申請を進めると良いでしょう。
申請の方法やどのような補償が受けられるかは、次の章で解説をしていきます。

症状の進行具合などを記録しておきましょう

再発した症状が少しでも労災認定に近づけるように、あなたの症状をしっかりと記録をしておくと良いでしょう。
例えば、いつ頃から症状が出て、こういう時に痛む、特にこういう動きが辛い、など、申請用紙に症状を書く時に、多くの情報を記載できるように準備をしておくことをおすすめします。

豆知識:要件を満たしていなくても認められるケース

労災保険では、先ほど解説した3つの条件を満たさなくても例外的に再発が認定されることがあります。
それは、骨折などの治療をする際に使用した、ボルトや金属プレートを取る手術を行うときです。

「足を複雑骨折しちゃって、ボルトで固定しているんだよね。まぁ治ったら抜く手術をするんだけどさ」
あなたの周りでも、一度はこのような話を聞いたことがあるのではないでしょうか?
このようなときは「再発」とみなされ、労災保険の補償を受けることができます

 2.再発時に受けられる補償と申請方法

2-1.再発時に受けられる補償

基本的には通常の労災と同じ補償が受けられる

あなたの症状が再発と認定されたときに、労災保険から受けられる補償は、通常の労災保険の補償と同じものです。
労災の指定病院以外を利用し治療費を立替えていれば、その治療費が補償されますし、再発によって後遺障害が残れば、年金や一時金の補償を受け取ることができます。

しかしながら、注意が必要な補償項目もあります。
それは以下の2つです。

①休業補償
②障害補償(後遺障害)

ではそれぞれ解説をしていきます。

① 休業補償

休業補償は、怪我や病気をした方の平均賃金をもとに補償されます。
ここで問題になるのは、【最初に労災事故が起きた時の平均賃金】と【再発時の平均賃金】に差が出ているケースです。
再発時に受けられる補償は、【最初に労災事故が起きた時の平均賃金】をもとにした補償なので、時間の経過とともに給料が飛躍的に上がっていたとしても、その分は含まれないため、注意が必要です。
また、最初に休業補償を受ける時は、3日以上の休業が必要ですが、再発の際にはその基準は適用されません。

② 障害補償(後遺障害)

障害補償は体に残る障害の程度によって、一時金や年金が補償されます。
ここで問題になるのは、再発する前に既に障害が残っており、一時金を受け取っているケースです。

例えば…

  • 最初に怪我や病気が治った時に、労災保険で定める10等級の障害が残り、補償の基礎となる日額の302日分の一時金を受け取った。
  • 半年後に症状が悪化し、再発が認定され、改めて8等級の障害が残るとされた。
    ※8等級の補償は基礎となる日額の503日分が補償される。
  • しかしながら、過去に302日分の一時金を受け取っているため、そのまま8等級の503日分が補償されず、既に受け取っている302日分を503日分から差し引いた201日分が補償される。

 このように、重複して補償を受け取ることはできないため、注意が必要です。

いつまで補償を受けることができるのか

再発後の補償は、悪化した症状が再発する前の状態に戻るまでが対象となっています。
しかしながら、治療を行った結果、治癒の状態まで戻らなかったとしても、「これ以上良くならない」と判断された場合は症状固定となり、補償は終了します。

詳しくは下記図をご覧ください。

rousaisaihatu1

①労災事故を受け治療をした結果、75%の状態で治癒になり一度補償は終了した。
②半年後に症状が悪化し、40%の状態で再発の認定を受け、治療をした。
③75%の状態まで戻すために治療を続けていたが、医師により、これ以上は良くならないと判断され、60%の状態で症状固定とされた。

このように、あなたの意思とは意思に反して、最初の治癒の状態に戻る前に治療・補償が終了してしまうことも考えられます。
このような可能性を少しでも減らすために、再発を疑う症状が出てきたときは、時間をかけて悩まずに、労基署や会社の労災担当に相談し、いち早く再発の申請を進めると良いでしょう。

2-2.再発時の申請方法

再発時の申請方法は、最初に労災を申請した時と同じ手続きで行います。
いわゆる【様式第5号】の用紙に「一度治癒をしたが、◯月◯日頃から悪化した」など書き加えて申請をしてください。

その他は最初に労災申請をしたときと同じ内容を記入します。
また、休業補償を請求する用紙には平均賃金を記載する欄がありますが、平均賃金は最初に申請をしたときと同じ額を適用するため、記載を省略することができます。
※再発時に初めて休業補償を受ける時は記載が必要です。

退職や転職をしている場合

労災申請には勤めている会社から証明(会社の押印)を受けることが必要です。
しかしながら、退職や転職により証明を受けられないときは、「いついつに退職・転職をしたため、証明を受けられない」という旨を請求用紙に記載するか、別紙を添えることで申請ができます。
場合によっては、証明を受けられないことについて、労基署から聞き取り調査もするようなので、嘘偽りは書かず、申請をすることが望ましいでしょう。

申請は速やかに行いましょう

2-1でも解説をしましたが、再発を疑う症状が出たときは、認定をされる、されないは別として、速やかに申請を進めることをおすすめします。
その理由は、最初の治癒から再発の申請まで長い期間が空いてしまうと、因果関係の判別が難しくなることが考えられるからです。

症状によっては、長い時間を経て発生するものもあるかもしれませんが、労基署や医師の判断を手助けする意味でも、特別な事情が無い限りは速やかに申請をしてください。

トピックス:再発の認定を巡った判例〜会社の視点から〜

ここでは、労災の再発を巡った判例を2つ紹介していきます。
休職をしていた従業員が復帰をした後に、どのような行動にでる可能性があるのか、ご参考までに読み進めてみてください。

判例1:再発が認められなかった判例
※出典 北海道新聞 2008年11月22日

1審、2審判決によると、男性は1974年に日用品卸会社に入社し、残業が月120時間を超えていた1988年10月にうつ病を発病して休職をした。約2ヶ月後に職場復帰したが、92年と95年に再発し、退職に追い込まれた。
男性は96年と2000年に、休業補償と治療費を労基署に労災申請したが、いずれも不支給処分となり、2005年に札幌地裁に提訴した。

  • 長時間の過密労働が原因でうつ病が再発したのに、労災が認められないのは不当だとして、 札幌市の男性(57歳)が、国の労災不支給処分を取り消すように求めた。
  • 最初のうつ病の原因と、うつ病の再発に因果関係があるかどうか、が最大の争点となり、札幌高裁は、最初のうつ病は過密労働などの仕事の影響を認めたが、再発したうつ病は仕事と因果関係がないと判断した。
  • 札幌高裁は労災と認定するように命じた一審の札幌地裁の判決を取り消し、男性の請求を棄却する判決を言い渡した。

このケースでは最初のうつ病は労災認定をされましたが、再発の際には労災として認められなった判例です。2008年当時はこの判例をもって、うつ病の再発による労災認定がますます困難になる、と考えられていました。

判例2:再発が認められた判例
※出典 労働新聞社 2016年7月27日

原告は平成19年6月〜11月の間、うつ病により休職をした。同年12月に復帰したが、仕事の結果が不十分であったため、取引先から問い合わせを受ける、データの誤りを指摘されることが続いた。
平成21年2月頃、仕事の内容が変更になったが、そこでも修正を要することがあり、「難しいので出来ない」と申し出たことがあった。
平成21年9月頃、具体的な仕事を与えられることもなく、席を大部屋に移動させ、作業場所に入室できないようになってしまった。
平成21年12月にうつ病を再発させ、12月21日から休職し、労災給付を求めたが、認定されなかったため、労基署を相手に訴訟を起こした。

  • システムの運用保守担当として働いていた元正社員が、うつ病から復帰後、再発したのは仕事を与えられないなどパワハラが原因として、労災不支給処分の取消しを求めた。
  • 裁判所は、原告の態度を理由に一方的に作業場所への入室を禁じ、3ヶ月間日報の整理以外の仕事を与えられなかったことによる心理的負担の程度と、うつ病再発との因果関係が争点となった。
  • 会社が行った行為は劣等感を与えたもので、心理的負荷は強度と判断し、うつ病再発との因果関係を認め、労災として認定するよう、労基署に判決を言い渡した。

いずれの判例も、労基署の判断を不服として、労基署を相手取り裁判を起こしています。

しかしながら、必ずしもその矛先が労基署だけに向けられているとは限りません。裁判を起こす側は「再発したのは会社のせいだ!」という強い感情があった場合、会社が訴えられる可能性も少なからずあるでしょう。
うつ病だけに限ったことではありませんが、労災事故から従業員が復職をした際に、「もう大丈夫だろう」と単純に考えず、個々のスピードにあわせ、完全復帰までの道のりを会社主体で作ることが大切かもしれません。

また、重い後遺障害が残ってしまった従業員には、労災保険のアフターケアなどを活用し、定期的に診察を利用してもらうのもひとつの手です。
アフターケアの適用には一定の条件があるため、詳しくはこちらの記事をお読み下さい。

知らないと損をする〜労災保険のアフターケア制度〜

まとめ

一度は治療が終了した後に症状が再発したり悪化したりすると、身体的にも精神的にも、とても辛い気持ちになるかと思います。
記事のなかで解説をした通り、条件によっては労災からの補償を受け、再び治療に専念ができる可能性はあります。
再発を疑う症状が出た時は悩みを抱えずに、労基署や会社の労災担当に速やかに相談し、再発の認定に向けて申請を進めてみてください。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。

SNSで最新情報をチェック

コメントを残す

*