あなたは、仕事中や通勤中に怪我をしてしまい、労災申請の手続きをしたことがありますか?
また、会社で労災を担当しており、従業員から労災の申請を依頼され、どうすれば良いのかお悩みではないでしょうか?
労災申請と聞くと、手続きは面倒では無いのか、誰にどの様に申請するのか、会社に迷惑が掛かるのでは、など、多くの方がネガティブな考えを持っていると思います。
確かに、労災申請は用意する書類が多く、手間も掛かるのでとっつきにくいのは否定できません。
しかし、申請方法の流れをしっかり整理しておくことで、誰でも悩まずに労災申請を進めることができます。
この記事では、個人・企業問わず、労災申請をスムーズに進めるために、必要な書類や、申請の流れを説明していきます。
労災申請の手続き中の方や、これから労災申請をする方は是非参考にしてください。
1.労災申請の方法
1-1.申請は誰が行うのか
労災の申請の手続きは怪我や病気をした本人や、その家族が行うことができます。
また、会社が従業員に代わって申請手続きを進めることもできます。
一般的には怪我をした従業員に極力負担を掛けないように、会社が手続きを代行することが多いようです。
悩んだらまず会社に相談をしましょう
そのため、これって労災かな?と悩んだ時は、まず会社の労災申請を担当している部署に相談してください。担当者が書類などを準備し、手続きを進めてくれるはずです。
あなたが、『会社に労災の申請を頼み辛いな』と感じることがあるかもしれませんが、労災保険は従業員を守るための制度なので、遠慮せず会社に報告をしましょう。
ただし、中小企業などで特に労災担当者を定めていないときは、あなた個人で申請を進める必要があるかもしれません。
その際、どの様に申請をすれば良いのか、この後に解説をしていくのでぜひ記事を読み進めてください。
なぜ会社が労災申請に協力する必要があるのか?
なぜ、会社が協力をする必要があるのかというと、社員の満足度を向上させるためです。
例えば…
- 申請から補償を受け取るまでの流れをスムーズに進めることで、離職率の低下に繋がる。
- 働いている方の安心や安全を守っている、と見られる。
など会社にとって良い効果が期待できます。
また、「大怪我をしたのに申請を従業員にやらせるのか!」「申請に協力をしてくれない!訴えてやる!」など不要なトラブルを避け、あなたの会社を守るために、労災申請は非常に大切な手続きです。とはいえ『イマイチ手続きがわからないな』と感じているあなたは、ぜひ先の内容を読み進めてください。
1-2.申請から給付までの流れ
ここでは、療養(補償)給付を例に、申請から給付まで一連の流れを説明していきます。
※補足:療養(補償)給付とは、怪我や病気の治療費を補償する項目です。
ポイントは病院の選択
労災を申請するうえで重要なポイントは、病院選びです。
・ それ以外の病院
上記のどちらを利用するかが非常に大切です。
理由は以下の通りです。
- 労災病院・労災指定医療機関を利用する場合
指定医療機関を利用すると、その場でお金を払わずに、無料で治療を受けることができます。
- それ以外の病院を利用する場合
下記フローチャートの通り、指定医療機関以外を利用する時は、一時的に治療費を立替えることになり、あとで請求することで負担した費用が全額支給されます。あとで申請をすれば費用は労災保険から補償されますが、怪我の程度によっては莫大な医療費を負担する可能性もあります。そのため、やむを得ない事情が無い時は、その場で治療費を払う必要の無い労災指定の病院を利用しましょう。
労災指定の病院をあらかじめピックアップしておこう
会社の労災担当の方は、労災が発生した際の病院選びに手間取らないよう、近隣の指定医療機関のリストを作成することをおすすめします。
また、工場や支店など事業所が複数ある会社は拠点ごとに、また建設業を営む会社は現場ごとにリストを作成すると良いでしょう。
労災が発生した際に、従業員に費用の負担が掛からないよう、指定医療機関を把握しておくことは非常に重要だと考えられます。
指定医療機関は厚生労働省のホームページで検索可能です。
※1 会社から証明(押印)を貰えない場合も申請は可能です。(詳細は後の章で解説)
※2 必要に応じて、労基署から聞き取り調査や、追加書類の提出を求められることもあります。
※3 労基署が労災ではない、と判断した場合は給付金を受け取ることができません。
この時は、労基署に調査を再度行うよう、依頼ができます。(詳細は後の章で解説)
1-3.申請に必要な書類
ここでは、申請に使用する書類を給付金の種類ごとに紹介します。
下記の書類は厚生労働省のホームページより印刷が可能です。また、書類の記入例も確認できます。
掲載されていない書類や、正しく印刷ができない場合は、各都道府県の労働基準監督署でも入手ができます。
労働局一覧: ここから検索
会社の労災担当の方は従業員からの労災申請に備え、どんな時にどの書類を使えば良いのか、あらかじめ把握・準備しておくと良いでしょう。
申請に必要な書類一覧
1-4.労災申請の時効
労災保険の給付金を受ける権利には、時効があります。
請求忘れにより、給付を受ける権利を失わないように、時効の期間を把握することが大切です。
また下記の図の通り、時効は給付金の種類ごとに定められています。
2.労災申請の悩みと解決手段
2-1.労働者の視点から
会社が申請を進めてくれない場合の対応方法
もしも会社が申請に協力をしてくれない場合も、申請は可能です。
会社の担当者が労災の処理に不慣れ場合や、積極的に協力をしてくれない時は、労基署の労災課に相談し、必要な手続きを確認しましょう。
会社に「それは労災じゃないよ」と言われてしまった、というケースも想像できますが、労災かどうかの判断を行うのは、労働基準監督署です。
労基署の認定結果に不服がある場合
保険金の給付は、労基署が事故の事実や原因などの調査を行い、その結果に基づいて支払われます。
労基署の決定に不服があるときは、事実関係を再度調べるように審査請求ができます。
その結果にもさらに不服がある場合には、再審査請求ができます。しかしながら、審査請求や再審査請求で結果が変わる可能性は非常に低いです。
そのため、労災申請をする時に事故と怪我の関係性をしっかりと確認するなど、十分な準備をしておくことがポイントです。
その後、さらに不服がある場合は行政訴訟を起こすことができますが、訴訟には費用も時間、労力が掛かるため、おすすめはできません。
2-2.会社の視点から
加入手続きをしていなかった時はどうなるのか?
労働者を1人でも雇う会社は、事業を始めた時点で自動的に保険が成立しています。
加入手続きをしていない、といった場合でも保険関係は成り立っており、「手続き遅れ」「保険料未納」という扱いになります。
企業側が「加入をしていない」と考えている間に労災が発生した場合も、労働者は給付を受けることができます。
その場合、企業はさかのぼった保険料の支払いなど、負担が大きくなることが予想されます。
・ 労基署からの加入指導を受けていたにも関わらず、故意に加入手続きをしていない場合は給付金の100%が取り立てられます
・ 労基署からの加入指導は無いが、労働者を雇ってから1年を経過している場合は、給付金の40%が取り立てられます
このように、加入手続きをしていない場合、予想外の出費や無駄な労力を要することになります。
労災保険の加入手続きをされていない企業は、お早めの加入手続きを強くおすすめします。
故意に申請をしなかった場合の罰則
怪我や病気をした従業員から申請を希望された際、明らかに労災であるにも関わらず労基署へ申請をしない、事実と異なることを説明する、などした場合は労災隠しとして厳正に処分をされてしまいます。
具体的には50万円以下の罰則、会社名の報道など、企業にとって大きなダメージを与えることになります。
また、うっかり申請を忘れてしまい、労災隠しでは?といらぬ疑いが掛からないよう、十分注意が必要です。
まとめ
労災申請の手続きはポイントを押さえていれば、そこまで難しいことではありません。
必要な書類の多さや、申請の手間を考えると「面倒くさい」というイメージを持つ方が多いと思います。
しかし、労災保険は従業員や会社を怪我や病気から守る、強い味方になってくれるものです。
「面倒くさい」と思うだけでなく、会社と従業員の絆を強くするひとつのきっかけとして、前向きに考えると良いでしょう。
また、労災申請をスムーズに行うための保存版マニュアルとして、この記事がお役に立てると幸いです。