災害補償規定をキチンと整備すべきことはわかってるけど、金額の根拠はどうしたら良いか、届け出の義務はあるのか等々、お悩みの方も多いのではないでしょうか?
実は災害補償規定をキチンとしておくことで、会社としての補償の根拠は明確になり、労災事故にあった従業員に金銭的な道筋を示すことができるようになります。
今回は災害補償規定の意義や整備のポイントをわかりやすく解説しました。 また大変役に立つ“災害補償規定の雛形”なども載せましたので是非とも参考にしてみてください。
1.災害補償規定が労災補償時のトラブルを避ける根拠となる
皆さんの会社にはキチンとした災害補償規定がありますか?
実は、労災被害にあった人の多くが
「会社から幾らもらえるのか、根拠が不明なので不安」との声が一番多いのです。
ネット上でも“教えてgoo”や“Yahoo知恵袋”などでも頻繁に質問されています。
不安になった従業員と会社が補償をめぐってトラブルになる原因は2つあります。
2. 会社側も労災保険からいくら出てくるのかもイマイチ不明なため、被災従業員にまともな説明ができない
なので会社と従業員とがモメ始めるようになってしまうのです。
ですから、災害補償規定をキチンと作って、周知徹底させておくことが重要となるわけです。
災害補償規定の意義は労災の時に会社の支払い根拠を明示することにあります。
会社として労働基準法上の最低限の義務を果たしていること、上乗せの補償も含め手あつい補償が受け取れることを被害者にキチンと説明すれば、被害者の生活不安やモヤモヤは少なからずや解消されます。
2.一般的な災害補償規定は“最低限の補償+法定外補償”で構成
働く人たちが労災事故にあった時に、「会社はあなたに幾ら支払いますよ」それを約束したものが災害補償規定です。
その出所は労災保険なのか、会社のキャッシュなのか、民間の保険なのか、被災者には関係ありません。
一般的な会社の災害補償規定は、“会社が義務ですべき補償”と“会社の任意(上乗せ)でする補償”が合わさったものが多いです。
2-1.最低限の災害補償は会社の義務だが被害者には100%ではない
会社が義務ですべき補償とは、労働基準法上の規定であらゆる会社が必ず守らなければならないものです。
会社が補償する内容は政府労災の給付内容に大変近く、例えば休業補償は60%を補償すればよいことになっています。
ですから、労災にあった本人や家族にとっては本当に最低限の補償であるということが言えます。
1.社員が業務上、負傷しまたは疾病にかかったときは、労働基準法の規定に従って以下の補償をする。
①療養補償 必要な療養の費用
②障害補償 障害の程度で決定額
③休業補償 平均賃金の60%
④遺族補償 平均賃金の1000日分
⑤葬祭料 平均賃金の60日分
2.補償を受けるべき者が同一の事由について労働者災害補償保険法によって前項の災害補償に相当する保険給付を受けるべき場合においては、その給付の限度において前項の規定を適用しない。
労災の場合、基本的には会社加入の労災保険を申請し、治療費や休業補償などをもらうことになります。
ですが労災保険だけでは、労災事故にあった本人や家族にとっては今までの生活水準を維持することは、現実的には大変厳しいものになります。
ですから、労災保険の不足分を補う目的で民間の保険会社の保険などに加入している会社が一般的になってきました。
それが次で解説する「法定外補償」です。
2-2.法定外補償とは会社独自の補償なので基本的には自由
あくまでも法定外補償を規定に盛り込むかどうかは各会社の任意となります。当然ですが義務ではありません。
なので、各会社によって法定外補償の導入の有無、支給金額、補償対象の範囲(正社員以外を含む含まないetc..)などは、各会社が自由に決めることができます。
ですが、会社は法律上で義務付けられている補償をすれば、義務を果たしたことになるのでしょうか。
労災被害者の感情を考えれば、答えはノーです。
最低限の補償だからこそこの先の経済的な生活不安は間違いないでしょう。
金銭をめぐって会社への責任追及や損害賠償請求をされた場合、その損害賠償金のほうがよほど甚大です。
金銭的な不安がより大きい代償を生む前に、会社として法定外補償を制度化し、労災被害者の経済的不安を少なくしてあげることを優先しましょう。
3.災害補償規定に盛り込んでおきたい4つの項目
災害補償規定は各会社によって形式や項目もそれぞれ違ってきますが、盛り込んでいる内容は本質的に一緒です。
ここで、モデルとなる災害補償規定のひな形を参考に、盛り込んでおきたい項目を4つ解説いたします。
*モデル的な災害補償規定のひな形(目的) |
どの条文も大切なことばかりですが、盛り込むべきポイントとなる箇所を4つ解説いたします。
1. 公的な保険の給付を優先する
まずこの第3条ですが、
労災保険・自賠責・健康保険などの“公的な保険”からの給付がある場合、その支払い金額を優先して「会社として補償すべき金額に充てますよ」という意味です。会社がすべての支払いを回避したいわけではなく、法的にも認められている箇所です。
2. 会社として「法定外補償給付」がある旨を追加する
このモデル災害補償規定の中では「ある程度の不足分は会社が補償給付するよ」と規定として盛り込んでいます。
3. 法定外補償は民間の保険でまかなうことを記載する
そしてその原資となるのは“民間の保険です”と第5条に載せて、具体的な金額を別表に記載しておく。
左の図は法定外補償の給付金額のひな形で、死亡・後遺障害の場合の金額と、休業補償のときに支払う金額を記入して規程として使います。
民間の損保でズバリ左の図の通り、法定外補償規定に合わせて加入する保険があります。多くの会社で労災保険の上乗せとしても導入さています。
4. 損害賠償請求のときに会社の支払いを支払い額を下げる条文
最後に、第8条が大切なことを言ってるのですが
「労災訴訟に発展し会社が損害賠償を支払うことになったときに、会社の損害賠償金は、給付されるすべての保険金を差し引いた後の金額にしてね」という意味です。ですが、あらゆる保険を控除した後でも会社が負担する金額はかなりの甚大な額とはなりますが、この第8条は必ず盛り込まないと大変です。必ずチェックしましょう。
【プチまとめ】
災害補償規定(もちろん就業規則すべて)は作ればそれで良いというわけではありません。
一番重要なのは、「すべての従業員がそれを知っていること」です。
パートやアルバイト、あらゆる従業員が就業規則(災害補償規定含む)を見ることができる環境づくりが大切です。
会社側が全従業員に周知徹底させていたかどうかは、訴訟になった場合には大変重要となってきます。
すべての従業員を守るため、会社を守るためにもぜひ周知徹底に努めましょう。
4.届出義務は10人以上雇用している場合に必要となるので注意が必要
厳密に言えば、
「常時10人以上雇用がある会社は“就業規則”を労基署に提出する義務があります。」 (下記項目参照)
*事項変更の場合も届出は必要です
下記の通り、災害補償規定は就業規則の中に盛り込まなければならない項目なので、結果的に届出義務が発生するわけです。 *災害補償規定単体での提出義務はありません。
- 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
- 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
- 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
- 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
- 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
- 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
- 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
- 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
上記の通り、
災害補償規定は必ず就業規則に盛り込まなければならない項目です。
すべての項目が従業員を守るために大切な項目ですが、就業規則は時代の流れとともに定期的な見直しが大切です。
災害補償規定に関して言えば、補償の範囲にパートやアルバイトなどの“非正規雇用者”含まれているか、法定外補償をまだ導入していないままだ等々、就業規則の見直しは企業防衛の第一歩とも言えますので、ぜひとも社労士などに相談し、見直しておく必要があるでしょう。
まとめ
災害補償規定は労災のときに従業員と金銭的なトラブルを避けるためのガイドラインとなります。
そしてすべての従業員に周知徹底させることが何よりも重要となります。
労災訴訟で損害賠償請求されたときに会社が不利にならないようにするためにも、現在の災害補償規定の見直しをぜひ行ってみてください。