建設業にとって工事中の騒音はどうしても付きまとってしまうものです。
近隣住民への配慮は行っていても、工事を行う以上騒音は発生してしまいます。
実際、環境省の調査によると騒音に関する苦情の件数のNO.1は工事の騒音です。
工事に伴う騒音により裁判に発展してしまったケースもあるのです。
この記事では、工事を行うときにどのような点に配慮すればよいのか、また工事の騒音クレームを受けたときにどのように対処すべきなのかを解説しています。建設業の方、必読です。
1.工事用の賠償保険では騒音に関する賠償金は払えない
保険会社各社、賠償保険の免責事項(保険が支払えない事項)に下記のような記載があります。
塵埃というのはチリやほこりのことです。
つまり、工事をしていたらチリやほこりが出ること・騒音が出ることはあらかじめ予測できることなので保険金を払いませんよ。と言っています。
確かに工事に騒音はつきものです。
しかし、音を出さすに作業するのは不可能です。
では次章で、工事の騒音で裁判になった事例を見ていきましょう。
2.工事の騒音による裁判事例
まずここで、工事の騒音による裁判事例を2つ見てみましょう。
例1: |
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原告の主張 ・ 上の階のリフォーム工事の際に、振動は耐え難いものだった ・ 何度も抗議して、覚書を書いてもらったが、覚書通りに工事をしていなかった ・ 吐き気や頭痛に悩まされ、病院による検査でも家族が病気の診断をうけた ・ 自宅にいることが苦痛でホテルなどへ避難した |
被告の主張 ・ 工事の測定値の平均は67dBであったため受忍限度内として許容されるべき ・ 工事は覚書通りにすすめていた |
裁判所の判断 再現実験によると工事は受忍限度をこえるものであったとして、業者に451,000円の支払いを命じた。 |
例2: |
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原告の主張 ・ 原告は深夜タクシーの運転手で工事による騒音で十分に眠れず、仕事にいけない日ができた ・ 代替住居を提供されたが、騒音が激しい部屋で不便でもあった ・ 防音シートを設置してもらったが効果は感じられなかった |
被告の主張 ・ 法令による規制を受ける作業は行っていない ・ 特定建設作業実施届出書を届け出た上で作業を行っている。 |
裁判所の判断 ・ 深夜業への従事を選択したのは原告であり、被害の発生は原告側の事情 ただし |
この2つ裁判をご覧になって、どのような感想をお持ちになりましたか?
そう、裁判という言葉に驚くものの実は支払命令が出た金額が大した額ではないのです。
それはなぜか?理由は、業者が法令等に大きく逸脱して工事を行っていないからです。
法令順守は当然としても、それを守ってはいても、支払い命令が出てしまうのはなぜでしょうか?
そこには「受忍限度」というカギを握るワードがあるのです。
2-2.騒音トラブルのカギを握る「受忍限度」とは?
工事の騒音トラブルを解消するために、まず押さえておきたい言葉が「受忍限度」です。
騒音クレームに関する京都地方裁判所の判例によると「人が社会の中で生活を営む以上、他のものが発する騒音にさらされることは避けられないのであるから、その騒音の侵入が違法というためには、社会生活上、一般に受忍すべき限度を超えているこいえることが必要である。」としています。
受忍限度とは平たく言えば、「我慢ができる限界」ということです。
ただ、「我慢ができる限界」というのは人それぞれです。
そこで、裁判所は「社会生活上、一般に受忍すべき限度」を超えると違法なんですよと判断しました。
各都道府県でそれぞれ建設作業の騒音に関する規制基準を設けています。
各都道府県別にみても、作業内容によっておおむね80dB~85dB以下が基準となっています。
dB(デシベル)とは音の大きさを表す単位で、数字が大きくなればなるほど大きな音ということです。ちなみに80dBがどの程度の大きさかというと
・地下鉄の車内
・電車の車内・ピアノ(1m)
・布団たたき(1.5m)
・麻雀牌をかき混ぜる音(1m)
ぐらいとされています。結構うるさい音ですよね。
ただ、この騒音の大きさの規制のほかにも、1日の作業時間や、連続作業日数にも制限があるのです。
この規制の基準を超える騒音が「受忍限度を超える騒音」とされ、慰謝料の支払いの対象となるのです。
3.工事の騒音クレームを受けたときにあなたがすべきこと
ここであなたがすべきことは、先ほど述べた「受忍限度」によって対処方法がことなります。
3-1.工事の騒音が受忍限度を超えている場合
これは明らかにあなたの会社の過失です。
直ちに、防音対策を行って騒音レベル下げる必要があります。
防音対策を怠った場合、法令等を無視しているわけですし裁判によって多額の慰謝料などの支払いを命じられる危険だけでなく、行政処分を受ける可能性があります。
3-2.工事の騒音が受忍限度を超えていない場合
この場合、法律的に慰謝料が認められない可能性が高く、慰謝料の支払いは必要ありません。悪質なクレーマーからの「迷惑料払え!」といった金銭の要求を、正々堂々と断りましょう。
ただし、やはり裁判事例などをみてみると、概ね規制基準通りに工事を行っていても、一部の時間帯で規制基準をオーバーしていることにより慰謝料の支払い命令を受けている業者が見受けられます。その点に抜かりがないかの確認も必要でしょう。
本来ならば、工事の騒音が受忍限度を超えていない場合でも、近隣住民とのトラブルを起こさないためにできる限りの防音対策を積極的に行うことが一番なのですが、やはり中には悪質なクレーマーもいます。
そうした場合には、毅然とした態度をとる度胸も必要です。
まとめ
今回は工事の騒音トラブルについて、どう対処すべきか、どう準備しておくかということを書いてみました。
「受忍限度」が、クレーム対応する際の重要なキーワードになることがお分かりいただけたかと思います。
騒音についてのクレームは、年々増え続けています。
それに伴い、騒音をめぐる訴訟案件もこれからどんどん増えていくことでしょう。
いつあなたの会社が騒音トラブルで頭を抱える日がくるかわからないのです。
いつやってくるかわからないその日のためにこの記事で説明した受忍限度、騒音の規制基準をバッチリと抑えておきましょう。