労災保険

労災隠しには罰則があり労働者安全衛生法で違法

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労災隠しには罰則があり、労働者安全衛生法違反になります。
厚生労働省は、司法処分を含め悪質な行為として厳しく対処することとしています。

労災事故でケガや病気になったのに、会社から、『治療費は会社で出すから、事故が起きたことは内緒にしてくれ』と言われ、健康保険で治療したりしてはいないでしょうか?

会社が労災と認めてくれない場合や、労災隠しと思われるときは労働基準監督署に相談しましょう。

今回は、労災隠しによる知識や、実際に労災隠しが発覚し書類送検された事案などを紹介します。

1.労災隠しには罰則があり法律違反で犯罪行為になる

会社は、労災事故が発生し、従業員が亡くなったり、ケガ・病気をして休業した場合は、『労働者死傷病報告』を労働基準監督署に提出することになっています。 この報告書の提出をしない、または虚偽の内容を報告すると、50万円以下の罰則に処せられます。
(労働安全衛生法第120条、第122条)

会社が労災隠しを行ってしまったら、最大の被害者は、労災事故で被災した従業員等です。
ここでいう従業員等とは、正社員の方以外にも、パート・アルバイト・派遣社員の方も労災保険は適用されます。

従業員等は、健康保険で治療費を自己負担しなくてはならないうえ、休業補償もないため、大きな不安を抱えることになります。本来、労災事故のときに健康保険を使うのは違法です。

労災保険に申請することによって、治療費の負担はなく、休業も補償されます。
また、身体に障害が残った場合でも、後遺障害の補償まで、もらうことができます。

労災隠しは、行政的な問題があるだけでなく、被災した従業員等に著しい不利益がもたらされてしまいます。

2.実際にあった労災隠しに対する送検事例

実際にあった労災隠しの事例を紹介します。
ここでは、労災隠しの多い建設業について取り上げてみました。

事例1
労働基準監督署に労働者死傷病報告を提出しなかった疑い
労働基準監督署は、労働安全衛生法違反の疑いで、建設会社Aとその経営者を地方検察庁に書類送検した。その経営者は、請け負った工事現場で従業員が高所から墜落し両手首骨折の重傷を負って4日以上休業したのに報告しなかった
 事例2
 受注を確保するために元請に労災保険で迷惑をかけたくないと隠蔽
労働災害が発覚するまで『労働者死傷病報告』を提出しなかったとして労働基準監督署は、労働安全衛生法の疑いで、2次下請けの建設業Bの経営者と3次下請けのCの経営者を地方検察庁に送検した。マンション新築現場で、Cの従業員が転倒し右手首を複雑骨折したが、BとCが共謀して隠蔽した
 事例3
元請の労災保険を使うと迷惑がかかり、仕事がもらえなくなるとおもったので、虚偽の報告
虚偽の『労働者死傷病報告』で労災隠しを行ったとして、労働安全衛生法違反の疑いで建設会社Dとその経営者を地方検察庁に書類送検した。元請業者から2次下請けしたビル建設工事中に現場で熱湯を浴び、全治3週間のやけどを負ったが、『自社の資材置き場で起きた』と虚偽の報告をした疑い

3.労災隠しを行った会社への5つの厳正な措置

厚生労働省では、司法処分を含め厳しく対処することとしています。
具体的には労災隠しを行った会社に対して以下の事項で厳正な措置があります。

①会社に対して司法処分(刑法上の責任)

②会社の事業者に出頭を求め、警告され、再発防止対策を講じさせる

③全国的な地域で事業を展開している会社において労災隠しが行われた場合は、当該本社等に対して再発防止のための措置を講じる

④建設事業無災害表彰を受けた会社は、無災害表彰状を返還させる

⑤労災保険のメリット制の適用されている会社は、労災保険料の再計算を行い、適正な保険料を徴収する。

(厚生労働省より)

4.労災隠しとは?

会社は、『労働者死傷病報告』を労災基準監督署に提出しなければなりません。
労災事故の発生を隠すために報告書を故意に提出しない、または、虚偽の内容を記載して提出することを『労災隠し』といいます。

労災隠し1

4-1.労働者死傷病報告は重要な労災事故防止の資料

労働者死傷病報告は、労働災害原因を把握し、再発防止策を確立するために提出が義務づけられています。また提出することによって、労働災害の統計が作成され今後同種の会社に対する適切な労働災害防止策の推進にとって重要なことでもあります。

以下のように、労働者死傷病報告の提出をしましょう。

労災隠し2

この報告は、今後の労働災害を防止するための大事なデータとなりますので、事故の大小に関わらず、必ず報告するべきです。
この報告を怠ると労災隠しとなってしまいます。

 

5.会社が労災隠しをしてしまう理由

なぜ会社は、労災事故を隠すのでしょうか?ここでは、全業種の理由と、労災隠しの60%以上を占める建設業(労働基準監督署の統計より)を中心に考えてみます。

全業種の理由
①会社が労働基準監督署から調査や監督を受け、行政上の措置や処分が下されることを恐れて隠す
例)業務停止処分、業務改善処分、労働災害防止策作成など
②会社が労災事故によって労災保険メリット制(保険料割引制度)の適用に響くため隠す
例)労災の保険料が高くなってしまう   注:通勤災害に対しては、保険料は上がりません
③無災害表彰の受賞や、社内の安全成績に影響を及ぼすために隠す
例)無災害表彰状を返還する。会社の労災無事故記録が途絶えてしまう
建設業特有の理由
①公共事業で労災事故が起きた場合、元請業者が今後の受注に障害になってしまうのではないかと隠す
例)経営事項審査のポイント(評点)が下がってしまう
②労災事故を起こした下請業者が事故の発生を元請業者に知られると、今後の受注の悪影響を及ぼしてしまうかもと隠す
例)元請業者からの評価が下がり、仕事の受注がなくなってしまう
③元請業者が、下請業者に対し労災災害責任を負わせるために虚偽の申告をさせる
例)元請業者が労災申請することによって、労基署からの調査・指導によるデメリット

6.会社が労災隠しによって背負う社会的責任

労災隠しは、労働安全衛生法違反になります。
労働災害が発生したのに関わらず、労災隠しが発覚してしまうと会社は大きなダメージを受けることになります。

 ~ 労災隠し発覚のシナリオ ~

労災事故により、虚偽の労災死傷病報告を労働基準監督署に提出、または未提出や隠蔽。  
 ↓
虚偽が発覚し、その会社と経営者が書類送検される
 ↓
その事件は、新聞やテレビのニュースでも会社名が公表される
 ↓
法令違反による社会的責任は大きく、今後の経営にも大きく響いてしまい、経済的損失は免れない!

また、労災隠しにより、従業員やその遺族との関係が悪化し、不法行為責任や安全配慮義務違反などで、損害賠償を請求されてしまいます。この場合の、慰謝料や遺失利益などは、労災保険から支払われるものでないので、経営難に陥ることも考えられます。

そのような職場で働きたくないと、従業員も会社を辞めるきっかけづくりになったりモチベーションの低下を招いてしまいます。

このような様々なペナルティーを受けるので、労災隠しで隠蔽や虚偽の報告をするということは社会的制裁を受けること、悪質な行為であることを今一度理解しましょう。

まとめ

労災隠しは労働安全衛生法違反になり、処罰されます。
労働基準監督署では、悪質な行為として厳正な措置がとられます。
労働者死傷病報告は、労働災害原因を把握し、再発防止策を確立するために義務づけられています。
会社が、労災隠しを発覚した後の社会的制裁は大きいので、悪質な行為であることを今一度理解しましょう。

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