労災保険

5分でわかる!示談で損をしないための第三者行為による労災

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第三者行為災害という言葉はどこか難しく捉えがちですよね。
しかし、実は中身はとってもシンプルなのです。

ここでは、Aさん(被害者)とBさん(加害者)に登場してもらって、わかりやすく説明していきたいと思います。

仕事で外周り営業中のAさんが、まったくの他人のBさんが運転する車にはねられてしまいました。
a&B

このように労災事故の原因が無関係の人によって起こってしまったものを、第三者行為災害と呼びます。

・ 通勤中に他人から自動車に追突された交通事故
・ 通勤中に道路を歩いていたら、工事現場から落下した足場などに当たって負傷
・ 仕事中に他人から因縁をつけられ暴行を受けた被害

など、第三者行為災害とはBさんのように加害者となる立場の人間がいる労災のことです。

今回はAさんが遭ってしまったような第三者行為災害の知識を説明していきます。
この第三者行為災害を理解することによって、おトクになる場合もあります。
加害者側の言いなりで、はやまって示談して損をすることがないように、ぜひ読んでください。

1.第三者行為による労災は第三者行為災害届を提出しよう

通常、仕事中や通勤中にケガを負ってしまった場合などは、治療費や休業補償といった費用は労災保険から支払われます。
そこで、Aさんは仕事中にケガをしてしまったので労災の申請を行います。

ところが、Aさんが労災申請をすると同時に労働基準監督署から「第三者行為災害届を提出してください!」と言われてしまいます。
Aさんは『被害者のはずなのに、なんでこんな面倒なことをしなくてはいけないの?なにか悪いことをしてしまったのかな』と不安になりますよね 。

Aさんはなぜこのような面倒を負わなくてはならないのでしょうか?

その理由は法律により、ケガをさせた加害者が賠償責任を負うと定められているからです。
ですからAさんのような第三者行為災害の場合、 そのケガの原因であるBさんまたはBさんの保険などから治療費など損害賠償金が支払われることになります。

しかし治療費などの支払いは、Aさんの労災とBさんの自賠責保険から重複して受け取ることができないとされています。

よって、Aさんが労基署に第三者行為災害届を提出することによって、Aさんの労災保険と加害者Bさん側の支払が重複しないように調整を行うのです。

2.第三者行為災害を申請するメリット

Aさんが第三者行為災害の申請をすることで、加害者Bさん側に対して持っている損害賠償請求の権利は 労災保険(政府)に移ります。
それにより 労災保険がAさんに代わって、加害者Bさん側へ損害賠償の請求手続きをしてくれますので、 Aさんは、安心して治療に専念することができます。

それでは、第三者行為災害が生じた場合、労災保険はどのように支払いの調整を 行うのかを次章で解説します。

3.第三者行為災害の損害賠償と労災保険給付との支払調整方法

支払いの調整方法は、「求償」と「控除」の2種類の方法があります。
ここで、少し普段あまり聞きなれない言葉が出てきました。

この「求償」と「控除」を簡単に言うと

求償・・・相手に賠償をもとめること
控除・・・差し引いて支払うこと

ということです。さぁ、これを頭にいれて続きを読んでいきましょう。

3-1.労災保険先行は支払われたときは加害者側に求償する

 第三者行為災害をおこした加害者Bさん側は、損害賠償を負わなくてはならならい立場です。
 労災保険から先に支払われたということは、労災保険が先に立替えたことなります。

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よって労災保険は、被害者Aさんに支払った金額を加害者であるBさん側に請求します。

3-2.損害賠償先行は労災保険からでるお金から賠償分が控除される

加害者のBさんやBさんの保険からの損害賠償から先に支払われたときは、労災保険は「同一補償」の部分で支払う保険金のうちBさん側から支払われた損害賠償金の分を差し引いて、被害者のAさんに支払います。

控除

労災保険で控除の対象になる損害賠償項目
控除される(同一の補償) 治療費、休業補償、障害補償(後遺障害)、遺族補償、葬祭費
控除されない 慰謝料(精神的なもの)、物の損害、労災上乗せ保険、示談金、和解金

4.第三者行為災害の交通事故と労災保険

第三者行為災害の多くは、AさんとBさんのような自動車による交通事故です。

自動車事故の場合は、Aさんの労災保険とBさんの自賠責保険・自動車任意保険の保険金支払いの どちらを先に受けるか、Aさんが自由に選択することができます。

 通常の場合は、自賠責保険・任意保険を先に受ける方が、被害者のAさんにとってメリットがあると考えられます。

4-1.自賠責保険等から先に受けた(自賠先行)場合の4つのメリット

自賠責を先行した場合、Aさんにとって4つのメリットがあります。

1.  休業補償は、最終的に120%の金額がもらえる
2.  保険金の支払いがスムーズ
  仮渡金や内払金の制度があります
3.  慰謝料が支払われる。労災保険はない
4.  治療費の支払対象が、労災保険より広い
  ( 通院交通費、諸雑費、義足・補聴器・眼鏡等の費用 )

休業補償に関して補足すると、 労災保険の休業補償には、休業給付60%と休業特別支給金20%の 2つの給付があります。

自賠責保険を先に請求しても、労災保険から支払われる60%については控除されますが、 特別支給金20%は控除されません。
つまり、自賠責を先行させると自賠責保険の休業補償100%+労災保険の特別支給金20% 合計120%を 受け取ることができるのです。

なお、労災保険の特別支給金をもらうためには必ず労災保険の申請が必要ですので、忘れずに申請するようにしましょう。

4-2.例外として労災保険を先に受けた方が良い2つのパターン

1. 自動車事故で、自分の過失割合が大きい場合
2. 加害者側が自賠責保険しか加入していない場合

1.2の理由を説明します。

 1.自動車事故で、自分の過失割合が大きい場合

 自賠責保険は、過失割合70%以上になると減額されてしまいますが、 労災保険は減額がされないからです。

2.加害者側が自賠責保険しか加入していない場合

自賠責保険に加入していないなど、あってはならないことですが、そうした類の人は極まれに存在します。
この場合、自賠責ではなく直接相手に請求することもできますが、払ってもらえる可能性は極めて低いです。
お金の不安を解消し、早く治療に専念するためにもこのような場合は労災を先行させるとよいでしょう。

このようなことから、 第三者行為災害になってしまった場合は、どちらを先行する方があなたにとってメリットがあるか判断する必要があるでしょう。

さて、ここからは冒頭でお話しした被害者Aさんの提出した第三者行為災害届の書き方、そして加害者のBさんが提出しなくてはならない第三者行為災害報告書の用紙や記入例について説明していきましょう。

5.被害者が第三者行為災害届と添付する提出書類

第三者行為災害届は、被害者Aさんが労災保険申請すると同時に労働基準監督署に提出することになっています。
この書類を提出しない場合は、労災保険給付がストップされてしまう場合もあるので 必ず提出しましょう。

第三者行為災害届(2部)に下記の書類を添付して提出します。

添付書類名 交通事故による災害 交通事故以外による災害 提出部数 備考
「交通事故証明書」または、「交通事故発生届」 × 2部 「交通事故証明書」は 保険会社から入手可能。 手配できない(相手不明など)の場合は、「交通事故発生届」を作成
念書(兼同意書) 3部  
示談書の謄本 1部 示談が行われた場合
自賠責保険等の損害賠償金等支払証明書または保険金支払通知書 × 1部 保険会社から送付される 仮渡金や賠償金を受けている場合のみ
死体検案書または死亡診断書 1部 死亡の場合のみ
戸籍謄本 1部 死亡の場合のみ

以下、厚生労働省ホームページよりダウンロードができます。

なお、印刷時の注意点はこちらをご覧ください。

6.加害者側が提出する第三者行為災害報告書

加害者Bさん側は、「第三者行為災害報告書」を作成し 労働基準監督署へ提出しなくてはなりません。
この書類は、災害発生状況や損害賠償金の支払い状況を確認するための書類です。

被害者であるAさんから、第三者行為災害届が提出されると、 労働基準監督署より加害者Bさん側に対して、郵送などで「第三者行為災害報告書」の提出を求められます。

つまり、この書類が滞ってしまうと被害者であるAさんに対してさらに迷惑をかけてしまうことになるので、速やかに提出しなくてはなりません。

第三者行為災害報告書 
(厚生労働省 第三者行為災害のしおり P.16~17)
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ここまでAさんとBさんに登場してもらって第三者行為災害の流れについて説明してきました。
では、今回のケースではBさんという加害者がいましたが、当て逃げなど相手不明などの場合はどうすればよいのか、次章で説明します。

7.相手不明の第三者行為災害でも労災保険で対応できる

自動車や自転車で追突されたり、階段で押され転倒してしまったりしてケガを負ったのに 逃げられて加害者がわからない など相手不明の場合も、第三者行為災害届にその旨を記載し提出することになっています。

この場合は加害者側へ請求することができませんので、加害者側へ請求できないのであれば、 労災保険から治療費など補償され支払われます。

ただし労災保険は、慰謝料はなく、休業補償は 100%補償されないので、ご注意下さい。

第三者行為災害には事故証明書が必要になりますし、後日、加害者側が警察に名乗り出たり、検挙される場合があるので、必ず警察に届け出を出すようにしましょう。

最後に損害賠償でつきものの示談についての注意点です。

8.第三者と示談をする際の注意点

 示談をする際は、事前に労働基準監督署へ連絡するようにしてください。

示談とは・・・

話し合いで決めること。
特に、民事上の紛争を裁判によらずに当事者の間で解決すること。

出典:デジタル大辞泉

簡単に言うと、その金額で被害者と加害者が納得したということです。
お互い納得したのなら、いいではないかと思いますよね。

しかしながら、このようなケースがあるので注意をしてもらいたいのです。

示談したあとに、労災保険の支払いが100万円を超えることが見込まれました。
しかし、示談(以後の損害賠償請求権を放棄した)が成立したということは、既に損害賠償を受けたことになるので、それ以上労災保険からは、支払われません。

もらえるはずのお金がもらえないことは被害者にとって損でしかありません。

加害者側もできるならば、賠償金は安く済ませたいのがホンネです。
相手の言うがままに示談に応じ、相手の思うツボとなり相手方が「へへ。あいつチョロイチョロイ!」なんて思われた日には、被害者にとってたまったものではありません。

ですから、事故直後などに加害者側に示談を持ちかけられても避けることです。

示談する際は、締結する前に労働基準監督署に必ず相談してください。
またその示談書は、労働基準監督署に提出しましょう。

まとめ

  • 第三者行為災害は、加害者側が被災労働者に対して、賠償責任の義務があります。
  • 労災保険の支払いの調整は、求償と控除がありの2通りがあり、 
    労災保険から先に支払われた場合は、加害者側に請求する「求償」。
    加害者側から先に支払われた場合は、労災保険は差し引いて被害者に支払う「控除」。
  • 交通事故の場合は、一般的には自賠責保険等から先に受け取ることが良いとされています。
    労災保険より、自賠責保険からの補償の範囲が広いからです。
  • 示談する際は、労働基準監督署にかならず相談してください。
  •  第三者行為災害の加害者側になってしまったら、第三者行為災害報告書を提出するように 求められるので、速やかに提出しましょう。
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