労災保険

健康診断は会社も労働者も義務~労働安全衛生法のポイント~

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あなたが働いている会社では、毎年1回の健康診断は実施されていますか?

健康診断とは、労働者が仕事をする上で常に健康で働くことができるようにするため、会社が健康状態を把握し健康管理をするために実施することになっています。

しかしながら、中小企業では意外と会社で健康診断を実施していないところが多いようです。

労働安全衛生法66条で、会社は、労働者に対して医師による健康診断を行う義務があり実施しなければ罰則があります。
また、労働者は会社が行う健康診断を受診する義務があり、受診を拒否すれば場合によっては不利益なことが起こり得ます。

今回は、労働安全衛生法の健康診断の基礎知識と重要性について記事を書きましたので、お読み下さい。

1、会社は、社員に健康診断を受診させる義務がある

労働安全衛生法 第66条

事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行わなければならない

上記のように、会社は健康診断を行う義務があり、この義務を違反すると50万円以下の罰金になります。
また健康診断の費用は、健康診断の実施が義務化されている以上、会社が負担することになっています。

このように定めがありますが、労働者のために思うと健康診断することが思いやりですよね。

1-1、健康診断を受診する対象者は「常時使用する労働者」

労働安全衛生法上の健康診断は、「常時使用する労働者」に対して受診させなければならないとされています。
その常時使用する労働者とは以下の通りです。

正社員
期間の定めのない契約により働いているもの
契約社員等
更新により1年以上働くことが予定されているもの、及び更新により1年以上働いているもの
パート・アルバイト
その会社で同じ業務に従事している社員の1週間の所定労働時間数の4分の3以上働いていること
ただし、2分の1以上働いているパート・アルバイトに対しても実施することが望ましいとされています

1−2、健康診断の種類と回数は決められている

健康診断にはさまざまな種類のものがあります。
会社が義務づけられている健康診断は以下の通りです。

  健康診断の種類 対象となる労働者 実施期間
一般健康診断 雇入時の健康診断 (安衛則第43条) 常時使用する労働者 雇入れの際
定期健康診断 (安衛則第44条) 常時使用する労働者 (次項の特定業務従事者を除く) 1年内ごとに1回
特定業務従事者の健康診断 (安衛則第45条) 労働安全衛生規則第13条第1項第2号に掲げる業務に常時従事する労働者 左記業務への配置換えの際、6ヶ月以内ごと1回
海外派遣労働者の健康診断 (安衛則第45条の2) 海外に6ヶ月以上派遣する労働者 海外に6ヶ月以上派遣する際、帰国後国内業務に就かせる際
給食従事者の検便 (安衛則第47条) 事業に附属する食堂または炊事場における給食の業務に従事する労働者 雇入れの際、配置換えの際

厚生労働省ホームページより

一般的に当てはまる会社では、雇入時の健康診断と定期健康診断が必須となってきます。
雇入れ時健康診断と定期健康診断の項目について解説します。

1−3、健康診断の受ける項目は決められている

雇入れ時と定期健康診断の項目は次のとおりです。

雇入れ時の健康診断(労働安全衛生規則第43条)
1 既往歴及び業務歴の調査
2 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
3 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
4 胸部エックス線検査
5 血圧の測定
6 貧血検査(血色素量及び赤血球数)
7 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
8 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
9 血糖検査
10 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
11 心電図検査

新しく常時使用する労働者(従業員、契約社員、パートアルバイト)を雇用する場合は、上記の項目について健康診断を行うことになっています。

定期健康診断(労働安全衛生規則第44条)
1 既往歴及び業務歴の調査
2 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
3 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
4 胸部エックス線検査
5 血圧の測定
6 貧血検査(血色素量及び赤血球数)
7 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
8 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
9 血糖検査
10 尿検査(尿中の糖

定期健康診断は、年1回において健康診断をすることになっています。
雇入れ時の健康診断と項目は同じですが、自覚症状や他覚症状、既往症歴から判断して、医師が必要でないと認めるときは、省略することができます。

2、労働者は、会社の行う健康診断を受けなければならない

労働安全衛生法第66条
労働者は、事業主の行う健康診断を受けなければならない

上記のように、労働安全衛生法において労働者の健康診断の受診を義務としている。

法的には、罰則はありませんが、ただ、万が一、この受診に従わなかった場合は、会社はその労働者を減給処分などのペナルティーを課しても問題がないと処分取消請求が棄却された裁判判例もあります。(平成13年最高裁「愛知県教委事件」)

しかし、会社の指定する病院で受診することを拒否することはできます。

会社の取引がある医師で健康診断を受診しなければならないとは決められていません。
かかりつけの病院で健康診断を受診しても良いのです。

ただし、健康診断の項目に相当する内容の健康診断を受け、その結果を書面にて会社に提出して下さい。

2-1、会社は労働者の健康状態を把握し健康管理しなければならない

労働者が仕事をする上で常に健康で働けるように、会社は労働者の健康状態を把握し適切な措置を行います。
医師の意見を聞き、労働者の働く環境を変える必要があります。

①就業場所の変更
②作業の転換
③労働時間の短縮
④深夜業の回数の減少、昼間勤務への転換など

労働者を取り巻く環境は大きく変化してきていて、脳・心臓疾患などの異常がある労働者が5割近くにまで及ぶ状況にあり、ストレスを感じる労働者の割合も年々増加しています。

また過労死までに発展することからこのような取組みをするようになってきていますので、健康診断を受け、異常があれば、職場の環境を変えてもらうことが良いでしょう。

2-2、健康診断の受診を拒否することについてのデメリット

健康診断を拒否し続けて、過労で倒れてしまった場合のことを考えてみましょう。

万が一、脳・心臓疾患が原因で過労死や、精神疾患からうつ病が発症してしまった場合、労災認定されれば、労災保険から補償はされますが、到底補償は足りません。そこで、会社側に損害賠償請求を行うことになると思います。

しかし、義務であるべき健康診断を拒否していると労働者側は不利になり、過失相殺されてしまうことになります。その差額は何千万円も変わってくることがあるのです。会社にカラダのこと知られたくないから、会社の健康診断を受診したくないと言われる方が多くいらっしゃいますが、不測の事態に遭ってしまった場合を考えると健康診断は受診した方が良いと思います。

3、健康診断実施後に会社が取り組む6つのポイント

1、健康診断結果の記録
健康診断の結果は、健康診断個人票を作成し、それぞれの健康診断によって定められた期間、5年間 保存しておく
2、健康診断の結果について医師等からの意見聴取
健康診断の結果に基づき、健康診断の項目に異常の所見のある労働者について、健康を保持するために必要な措置について、医師の意見を聞かなければなりません。
3、健康診断実施後の措置
上記2により医師の意見を勘案し必要があると認められるときは、作業の転換、労働時間の短縮等の適切な措置を講じなければなりません。
4、健康診断の結果の労働者への通知
健康診断結果は、労働者に通知しなければなりません
5、健康診断の結果に基づく保健指導
健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要がある労働者に対し、医師や保健師による保健指導を行うよう努めなければなりません。
6、健康診断の結果の所轄労働基準監督署長への報告
健康診断(定期のものに限る)の結果は、遅延なく、所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。 (安衛則44条、45条、48条の健診結果報告書については、常時50人以上の労働者を使用する事業者、特殊健診の結果報告書については、健診を行った全ての事業者)

厚生労働省ホームページより抜粋

まとめ

この記事をお読み頂き、健康診断は会社と労働者にとって重要な役割があることが分かって頂いたと思います。

会社は、常時使用する労働者の健康状態は把握し、必要であれば職場環境を変更する義務があります。

また労働者も健康診断の受診を拒否することによって、職場環境の改善をしてくれず、万が一の場合には、立場が弱くなり、充分な補償を受けることができなくなります。

労働安全衛生法による健康診断は、会社と労働者、お互いにとって義務なので必ず実施するようにしましょう。

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