労災保険

通勤災害が労災認定される為に知っておくべき大切なポイント

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あなたは、会社へ出勤するとき、または会社から帰宅するときに怪我をしたとき、「これは通勤災害になるのか?」「労災から補償を受けられるのかな?」など不安に感じているのではないでしょうか?

同じ労災保険でも仕事中の怪我と通勤災害では補償を受けるための判断基準が異なります。
あなたがどの様な経路で通勤したのか、またどの様な方法で通勤したのか、など通常の労災申請より事細かに事故の状況を説明する必要があります。

この記事では、どの様な怪我が通勤災害として認められるのか、労災保険で定めている基準や申請の方法を解説していきます。
また、通勤災害が労災として認められないときの対策法も紹介をしています。
出退勤途中の怪我でお悩みの方はぜひ、お読みください。

1.通勤災害が労災認定されるために必要な4つの条件

1-1.労災保険における通勤の条件を満たす必要がある

通勤災害が労災認定されるための大前提として、労災保険における【通勤】の条件を満たす必要があります。
その条件は以下の通りです。

A. 仕事に関連する移動であること
B. 住居と仕事をする場所との往復であること
C. 合理的な経路及び、合理的な方法であること
D. 逸脱や中断をしていないこと

では上記の条件を具体的に解説していきます。

A.仕事に関連する移動であること

労災保険の通勤は、その移動が仕事との関連性があるかどうかが問われます。
実際にどのような観点で判断をされるのか、いくつか例を挙げてみましょう。

仕事との関連性があるケース
  • 寝過ごしによる遅刻や通勤ラッシュを避けるため、早めに家を出た。
    →予定時刻より早出をしても仕事との関連性が認められる。
  • 仕事が終わった後、社内で野球中継を30分程見てから帰宅した。
    →社会通念上、仕事と帰宅の関連性が失われていないと判断される。
仕事との関連性がないケース
  • 午後1時からの出勤であったが、早朝6時に行われる運動部の練習に参加するために、朝から家を出た。
    →決められた就業時間とかけ離れた時刻に会社に行っているため、関連性が無いと判断される。
  • 仕事が終わった後、社内のスポーツサークルでつい夢中になってしまい、4時間程運動してから帰宅した。
    →社会通念上、仕事と帰宅の関連性が失われていると判断される。

 ※詳しくは後の章で判例をもとに解説をしていきます

このように、労災保険では単に【会社に行く】【帰宅する】だけが通勤では無く、いかに仕事と関連性があるかが重要な判断材料になります。

B.住居と仕事をする場所との往復であること

労災保険で定める通勤は、住居と仕事をする場所との往復であることが条件です。
ここでは住居と仕事をする場所の解説をしていきます。

住居とはどこを指すのか

ここでいう住居とは、働く人の拠点となる場所で、必ずしも自宅とは限りません。
例えば、台風や地震などの天災により、やむを得ず職場近くのホテルに宿泊したときは、そのホテルが住居となります。

しかしながら、仕事が終わった後に同僚の家で飲み会をし、その同僚の家から仕事に行った場合は通勤とはなりません。

仕事をする場所とはどこを指すのか

仕事をする場所とは、業務を開始する場所、または業務が終了する場所のことで、一般的には会社や事業所、工場などが挙げられます。
しかしながら、営業職で客先に直行・顧客先から直帰をする場合などは、以下の通り定められています。

直行する場合→住居を出発してから最初に着いた仕事先を業務が開始する場所とする
直帰する場合→最後の仕事先を業務が終了した場所とする

労災保険では、このような仕事をする場所を【就業の場所】と言います。

C.合理的な経路及び、合理的な方法であること

合理的な経路とは・・・

合理的な経路、と聞くと【無駄の無い最短ルート】と考えがちですが、労災保険では合理的な経路が複数あっても問題はありません。

例えば・・・

・ マイカー通勤をしている人が自宅とは離れた場所の駐車場を経由する場合
・ 当日の交通状況(デモによる封鎖、道路工事で通行止めなど)により迂回した場合
・ 夫婦が共働きで子どもを保育所や親戚の家などに預ける場合

上記の様に、やむを得ない場合やその時の状況に応じて経路を変えた場合でも、合理的な経路として認められます。
しかしながら、特別な理由がなく著しく遠回りをした場合は合理的では無いと判断されます。

例えば・・・

マイカーで帰宅をする際に、お台場のイルミネーションが見たくなり、わざわざ遠回りし普段とは違う経路で帰宅した。

この場合は明らかに特別な理由は無いため、合理的な経路とは判断されないでしょう。

労災保険ではこのように、合理的な経路からそれることを【逸脱】通勤の経路上で関係の無い行為を行うことを【中断】と言います。
詳しくは後の項目で解説をするので、ぜひ記事を読み進めてみてください。

合理的な方法とは・・・

労災保険で定める合理的な方法とは、電車やバスなどの公共の交通機関、徒歩や自転車、自動車、二輪車など移動するための手段が常識の範囲内であることを言います。

しかしながら、自転車(マウンテンバイクなど)で危険な山道を走る、原付きの二人乗り、蛇行運転、飲酒運転や無免許運転などは上記の様な手段を使っているとしても、合理的とは認められません。

ただし、会社に申告をしている手段と異なる方法で通勤した場合でも認められる場合もある!

仮に、働く人が会社に電車通勤と申告し通勤手当を貰っていながら、健康のために自転車で通勤し、その途中に怪我をした場合は、【合理的な経路かつ合理的な方法】であれば、労災保険では通勤災害になります。

しかし、労災保険から補償をうけられたとしても、「通勤手当を支給しているのだから、電車を使うべきだ!」など会社とのトラブルになりかねないので、通勤を複数の方法で行う場合はあらかじめ会社に相談をすると良いでしょう。

D.寄り道や関係ないことをしていない

前の項目で少し触れたように、合理的な経路から大きく外れる、寄り道をするなどした時は、通勤として認められなくなります。
しかしながら、途中で経路上の公衆トイレを使用する場合やコンビニでタバコやジュースを買う場合など、通勤とは直接関係が無くてもささいな行為である時は、逸脱・中断とはなりません。

また、通勤の途中で逸脱・中断があるとその後は原則として通勤にはならず、怪我をしても通勤災害にはなり得ません。

ただし、以下の通り法律で例外が定められています。下記に当てはまる事をやむを得ない事情かつ、最小限度の範囲で行う場合は、その後合理的な経路に戻ると通勤となります。

※ 例外となる行為でも寄り道や中断の最中は通勤とはなりません。

“厚生労働省で定める、【寄り道・関係ないこと】にならない行為”

1.  日用品の購入その他これに準ずる行為

2.  職業能力開発促進法第15条の6第3項に規定する公共職業能力開発施設において行われる職業訓練、 学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為(終業後に資格を取得するために専門学校に通うなど)

3.  選挙権の行使その他これに準ずる行為

4.  病院または診療所において診察または治療を受けること、その他これに準ずる行為

5.  要介護状態にある配偶者、子、父母、配偶者の父母並びに同居し、かつ、扶養している孫、祖父母および兄弟姉妹の介護(継続的にまたは反復して行われるものに限る:1日限りはNG)

1-2.出退勤中の怪我でも業務上災害になるケース

ここまで、通勤災害として認められる条件を解説してきましたが、実は出退勤途中でも業務上災害(仕事中の怪我)と見られるケースがあります。

例えば・・・

  • 会社が用意をしたマイクロイバスを利用したとき
  • 会社所有の車による送り迎え
  • 休日に緊急対応などで呼びだされ、家を出てから仕事をする場所に着くまで
  • 出張先に向かう時、また出張先から帰宅する時
  • 会社の敷地内にある宿舎などから仕事をする場所までの間

このような場合は通勤災害ではなく、業務上災害となり申請時に用意をする書類などが異なるため、注意が必要です。

また、誤って申請をしてしまうと、書類の書き直しなど無駄な手間が掛かってしまうため、この様なケースに当てはまるのでは?悩んだ時は労基署に相談をすると良いでしょう。

※参考:通勤として認められる範囲

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2.判例から見る通勤災害の労災認定

ここまで、通勤災害が労災として認められる条件を解説してきました。
そのポイントの1つとして、「いかに仕事との関連性があるか」が挙げられます。
ここではそのポイントに注目し、実際の判例をもとに、どのようにして仕事との関連性が判断されるのかを解説します。

米沢労基署長(通勤災害)事件 東京地裁 平成22年10月 〜労災認定されなかった例〜
経緯
  • Aさんは終業後に他の従業員が主催するバドミントン大会に参加した。
  • 大会が終わった後、同僚が運転する自動車で帰宅した。
  • その際、交通事故に遭い、左足の切断手術を余儀なくされた。
  • Aさんは、この怪我を通勤災害として労災申請をしたが、労基署は支給しないことを決定した。
  • Aさんは不支給の取消しを求めて裁判所に訴えたが、通勤災害には当たらないと判決が下った。
裁判所が判断したポイント
  • 大会は部署対抗であったが、会社は運営に関わっていない。
  • 参加は強制ではなく任意で、全社員の2割程しか参加していない。
  • 仕事の時間外に行われ、時間外手当などの対象になっていない。
  • 参加の有無について管理がされておらず、上司などから参加を命じられていない。
  • 大会は仕事とは関係ないため、その後の移動は通勤とはならない。

このことから、従業員主体で行われる任意参加のイベントなどが終わった後の怪我が労災認定されるのは非常に難しいと言えるでしょう。

また、労災保険では社内行事を仕事と判断するための基準を以下のように定めています。
※一部抜粋

会社対抗など、対外的な運動会などに参加した場合(どちらの条件も満たすこと)
  • 行事への参加が出勤や出張として取り扱われる
  • 行事への参加に関して、交通費・旅費、参加費などの負担を会社が行い、労働者に負担がないこと
会社内の行事に参加する場合(どちらの条件も満たすこと)
  • 開催される行事が全従業員の参加を意図して行われるもの
  • 行事に参加しない場合は、欠勤として扱われるもの

このように、社内で行われているイベントだからと言って、仕事と判断されるわけではありません。
そのため、参加する従業員はもちろんのこと、企業も従業員との間でトラブルが発生しないよう、仕事とプライベートの境界線を把握し、基準を明確にすることが大切です。

3.忘年会などお酒の席から帰る時の怪我はどうなるのか

忘年会や新年会、歓送迎会、接待などの【飲み会】から帰宅をする時に怪我をした際に、ポイントとなるのは【飲み会】が業務として判断されるかどうかです。
つまり、【飲み会が仕事だった】ということが明確でないと、帰宅時の怪我が労災認定されることは非常に困難です。

そして、飲み会が仕事として認められるには、以下のような要素を満たしている必要があります。

  • 参加について業務命令があること(強制参加など)
  • 飲み会の目的、仕事との関連性(重要な打ち合わせを兼ねているなど)
  • 行われる時間帯と所要時間(理由もなく深夜スタート・無駄に長すぎないか、など)
  • 参加中に残業代などが支払われていること
  • 参加費用を会社が負担していること

実際には上記の条件が全てではなく、労基署が個別具体的に調査や確認し判断をします。
例えば、怪我をした従業員が飲み会の幹事を一任されていて、その人がいないと飲み会が成立しない、といった場合には、労災として認められることもあるようです。

ちなみに2次会以降となると、参加の自由度も高く、時間帯などから単なる飲み会として判断され、飲み会が仕事として認められることは、まず無いようです。

4.通勤災害で労災申請をする方法とその補償内容

ここまでは通勤災害が労災として認められるための基準を解説してきました。
この章では、実際にどの様に通勤災害を労災申請するのかを説明していきます。

4-1.通勤災害は業務災害と用意する書類が異なる

通勤災害で労災申請をする時でも、基本的には通常の労災申請と流れは変わりません。
→詳しくは・・・保存版!悩まずに労災申請の手続きを行うための手順書

しかしながら、申請の際に使用する書類の種類が異なり、怪我をした場所までの経路・方法・所要時間など、業務中の申請に比べ、記入をする項目が多くあります。記入例参照
また、前の章で解説をした通り、通勤の経路や方法が労災認定のポイントの1つになるため、記入をする際は十分に注意が必要です。

4-2.第三者行為による通勤災害の場合

通勤中に車にはねられて怪我をした、工事現場から物が落ちてきて怪我をした、などまったくの他人による行いが原因で怪我をしてしまったとき、ほとんどの場合は加害者が加入している保険から怪我の治療費などが補償されます。
しかしながら、場合によっては相手からの補償を待たずに労災保険を使ったほうが良い時もあります。

ひとつ例をあげてみましょう。

  • Aさんは通勤中にBさんが運転する車にはねられて怪我をしてしまった。
  • しかしながら、Bさんは強制加入の自賠責保険にも、自動車保険にも加入していなかった。
  • AさんはBさんに治療費などの補償を請求するが、Bさんは保険に未加入なので、払ってもらえる可能性は非常に低い。

このようなケースでは相手からの補償を待っていても「本当に支払って貰えるのか…?」と不安だけが大きくなってしまいます。
そのため、不安を解消し治療に専念するためにも相手からの補償を受ける前に、労災の申請を進めると良いでしょう。

このような第三者行為による労災については、こちらの記事で詳しく紹介をしているので、ぜひお読みください。

4-3.労災保険の補償内容

通勤災害が労災認定されると、以下のような補償を受けることができます。

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労災保険から補償が支給されるタイミングは、給付の種類によって異なり特に定められていません。
一般的には申請をしてから1ヶ月程で支給されることが多いようです。

しかしながら、怪我の状況や内容によっては調査が必要なケースもあるので、そのような時は支給されるまで時間がかかることが予想されます。

あなたが申請をしてから支給されるまで、「あまりにも遅いな」と不安を感じた時は、会社の労災担当や、労基署に相談をすると良いでしょう。

4-4.労災保険の補償はいつまで貰えるのか

労災保険の補償は、怪我が治るまで受けることができます。
ただし、労災保険の治るまで、は完全に回復した状態のことではなく、以下のとおり定められています。

労災保険では医師の判断により、治療を続けても改善の見込みがないときも『治った』とされます。このことを治癒(症状固定)と言います。

自分ではまだ治っていない、と思っていても医師の判断により補償を受け取ることができなくなる場合もあります。
治癒・症状固定と判断される前に知っておくべき知識については、こちらの記事をご覧ください。

5.業務とプライベートの判断が曖昧な際にリスクを回避する方法

前の章で解説をした通り、社内でのイベントや飲み会から帰宅をする際に怪我をした場合、業務とプライベートの境界線が曖昧なため、労災認定を受けることは非常に難しいと言えます。そのような時、『どこからも全く補償が出ない、どうしよう…』と途方に暮れてしまわないように、企業・従業員個人の視点でどのようにリスクを回避すれば良いのか、いくつか紹介していきます。

5-1.企業の視点からリスクを回避する方法

1. 社内イベント中の万が一に備えて保険に加入する

前述の判例で紹介をしたような不足の事態にそなえ、イベントや行事の参加者を対象としたレクリエーション保険などへの加入が挙げられます。
いくら業務との関連性が無く、会社に責任が無いとはいえ、大切な従業員を守るためにも、最低限の補償を準備しておくのが得策と言えるでしょう。
レクリエーション保険は1日だけのイベントを補償するものや、年間の行事をまとめて補償するものまで、各保険会社で様々な商品があります。

社内イベントの開催頻度や規模などを考慮し、必要に応じて保険に加入することをおすすめします。

2. 日常生活の怪我を補償する保険に加入する

前の章で解説をした通り、お酒の席が【仕事中】と判断される可能性は非常に低いです。
しかし、裏を返せば【仕事中ではない】ということは【日常の生活中】になるため、その部分を補償する保険に加入をしておくことでリスクを回避できます。

いわゆる労災上乗せ保険に、従業員の日常生活を補償するオプションを付けることで、業務時間外での怪我を補償することができます。
日常生活でのあらゆる怪我から従業員を守ることができるため、福利厚生的な意味合いでも、従業位満足度の向上に繋がるではないでしょうか。

また、保険会社によって細かい補償内容は異なりますが、飲酒運転やひどく泥酔しているときなど、一般的な常識の範囲外での事故は補償されないことが多いため、加入をご検討される際には補償内容を十分に確認することをおすすめします。

5-2.従業員個人の視点からリスクを回避する方法

日常生活の怪我を補償する保険に加入する

通勤災害が労災として認められず補償を受けられない時に、会社が任意で保険に加入しており、労災保険に代わって補償をしてくれるとは限りません。

そのようなケースに備え、従業員個人でも普通傷害保険などの日常生活の怪我を補償する保険に加入しておくと良いでしょう。

また、怪我により仕事ができなくなったときに備え、所得補償保険などに加入するのもひとつの手です。
各保険会社で様々な商品があるので、あなたのライフスタイルに合った保険に加入することをおすすめします。

まとめ

ここまで説明をしてきたように、通勤災害が労災として認められるためには、事細かに条件が定められています。

そして、一般的に【仕事中】として見られる会社行事などからの帰り道での怪我では、労災認定が非常に難しく、大怪我を負ってしまっても労災保険の補償を受けられないこともあります。

そのため、会社は【どこまでが仕事】で【どこからがプライベート】なのかを明確にし、従業員にその基準を周知徹底する必要があるでしょう。

また、従業員は「寄り道をせずに、家に帰るまでが仕事」という意識を持つ必要があります。
しかしながら、飲み会やスポーツなど、仕事が終わった後の息抜きも当然必要です。

その時は仕事を忘れて思い切り楽しめるように、保険に加入するなど、個人で出来る限りの準備をしておくと良いでしょう。

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