保育園で働く保育士にとって、職場の人間関係は非常に重要な要素であり、それでいてどこか触れてはいけない雰囲気のある難しい課題だと考えられます。恐らく、あなたの園でも『主任と馬が合わない』『新卒保育士に足を引っ張られている』はたまた、『園長からパワハラ、セクハラを受けている』といった声が耳に入ってきているのでは無いでしょうか?
その様な環境においては、保育士以上に園長、経営陣の方が頭を抱えていることかと思います。そして万が一、保育士がうつ病になって会社を訴えてきた、不満をもった職員が集団で退職をしてしまった、なんてことがあると、相当なダメージを受けることになります。
実際に、東京都の調査によると、離職理由のうち【結婚・出産】、【給料の少なさ】に続き、【人間関係】が3位に位置づけられています。園のことを想い、心身ともに健康な職場を作りたい、とお考えの皆さまに取って、何としても解決をしたい課題ですよね。
この記事では、保育士が抱えた不満の爆発を未然に防ぐ方法、そしてトラブルが起きてしまったときの解決方法を紹介していきます。
1.人間関係を悪化させるストレスの発生原因を整理する
職場の人間関係に悩みを抱える人がいるのは、なにも保育園に限ったことではありません。
当然ながらどのような仕事であっても、他人の言動や仕事の仕方に違和感を覚え、ストレスを感じることはあるかと思います。
しかしながら、とりわけ保育園においてそのような悩みが多く見られるのは、働く環境に特別な部分があり、ストレスを多く抱えることが原因だと考えられます。
耳にタコではあるかと思いますが、どの様な要素がストレスを与え得るのか、主だった部分を整理していきます。
1-1. 【感情労働】によるストレスが人間関係を悪化させる
一般的に、保育士は自分の感情を抑え、相手に合わせた言葉や態度が必要とされる【感情労働】とされています。
体力を使う【肉体労働】や、アイデアや情報を提供する【頭脳労働】に続く第三の労働の形として近年提唱されたものです。
この感情労働による疲労は、メンタルヘルスの不調を引き起こすことが多く見られるということで、社会問題としても取り上げられています。実際に保育の現場は、小さな子どもを相手にした仕事であり、それに加え保護者の目もあるため、自分自身の感情を強く抑える必要があることから、特にストレスを感じやすい仕事であると考えられます。
1-2. 保育士同士のマウンティングによるストレス
ストレスが生まれる大きな原因のひとつとして、保育士同士のマウンティング、いわゆる格付けが挙げられます。
保育園では役職があまり設定されていないため、いかにして自分の評価をあげるか、という意識のもとにマウンティングが行われ、ストレスの原因となると考えられます。
一般的には理事長、園長、副園長等がトップにいて、その下にいくと主任、というイメージでその他は横並びであり、上下の関係が曖昧な部分があります。
強いて言うならば、キャリアが長く経験のある職員が偉い、という目に見え辛い部分で人員の配置が行われていることもあるのではないでしょうか。
少し尖った表現ではありますが、【キャリア】さえあれば能力が伴っていなくても、ある程度の評価を得られることもあるようです。
ここでひとつ、実際にある保育園から聞いた実例を紹介します
○保育終了後に残業し、やっとの思いで完成した小道具を念のため先輩保育士にチェックしてもらった
○なぜか『わたしが主任に最終チェックしてもらうね』と先輩保育士が主任に小道具を見せに行った
○結果的に新卒の保育士が作った小道具は非常に高い評価を受け、お遊戯会は無事に終了した
○しかし、反省会で小道具について褒められたのは、主任に最終チェックを依頼した先輩保育士だった
○小道具は新卒の保育士ではなく、先輩保育士が作ったことになっていた
この例とは反対に、自身が叱責されるようなことを他人に擦り付ける、といった事例も耳にしたことがあります。
また、園長や主任に仕事ぶりを褒められた職員が同僚に妬まれて、いじめに遭うこともあるようです。
さらにはプライベートでの生活ぶりや、職員持参のお弁当の中身、目に付くもの耳にするもの全てがマウンティングのきっかけになり、仕事に関係の無い部分での格付けなどから、不要なストレスを抱えてしまうことが考えられます。
1-3.保護者とのやり取りで生まれるストレス
職員同士の人間関係以外にも、保護者との関係を築き上げていくことにも難しさがあり、もしかすると職場内以上に神経をすり減らすこともあるのではないでしょうか。
モンスターペアレントという言葉が意味する通り、普通では考えられないような、一方的な要求や、理不尽な理由でクレームをぶつけてくる保護者に対応するストレスは計り知れません。
特定の保護者の要求を受け入れた結果、そのことについて別の保護者から苦情を言われてしまう、など負のスパイラルに陥ることも考えられます。
そのため、現代の保育士は子どものみならず、保護者、ひいては家族全体を見なければいけない、という本来やるべきことを超えて仕事をすることが求められ、大きなストレスの原因になると言えます。
1-4.最終的には休職・退職・最悪の場合は訴訟になる
ここまで解説をした要素以外にも、ストレスを感じることは多々あるかと思います。
そして最終的にストレスが溜まりきった職員は休職や退職せざるを得なく、園は貴重な人材を失うことになってしまいます。
人手不足が深刻な保育業界において、失った職員の穴を埋めるために新たに採用をすることは簡単ではないですよね。
それに加え一人当たりの仕事量が増えるため、仕事のクオリティが下がってしまったり、新たな退職予備軍を作ってしまったり、負のループに陥ることも予想されます。
そのため、いかにして従業員満足度を高め職員を確保するか、が大きな課題ですよね。
ここからは、保険やそれに付随するサービスを利用して経営者、職員が抱える様々な悩みを解消し、安心して働ける環境を作る方法を紹介します。
普通の保険の使い方とは一味違った内容ですので、ここから先もぜひ読み進めて下さい。
2.保険の付帯サービスを活用すると、経営者・職員の様々な悩みの解消に役立つ
昨今、民間の保険会社が販売している商品には、役員や従業員が無料で使える非常に使い勝手の良いサービスがついています。主に、会社で入る仕事中のケガの保険、いわゆる労災の上乗せ保険に付帯をしているものがほとんどです。
ここで紹介するサービスを福利厚生的な要素として用意しておくと、従業員が安心して働ける環境作りに繋がりますし、園(会社)が職員のケアをしっかりと考えている、という見え方もできますので、従業員の満足度向上にも有効です。では、実際にどのようなサービスがあるのか、紹介をしていきます。
※ここで紹介する内容はいくつかの保険会社の大まかな概要ですので、サービスが利用できる条件や、細かい内容などは個別にご確認ください。
●経営者向けサービス
労務相談の窓口があり、臨床心理士や社労士などに相談をすることができます。
例えば、メンタルが不調な職員への対応方法や、休職をしている人や職場復帰をする人への対応、就業規則上の問題など、アドバイスを受けることができます。
特にメンタルヘルスに不調を抱えている職員に対しては、正確な知識かつ慎重に対応をすることで、症状の改善につながることがあります。そのため、休職、退職予備軍を減らし、人材の確保にも繋がるというメリットがあります。
●職員向けのサービス(役員も利用できるケースがあります)
医師、保健師、看護師などに健康のことや、育児のこと、メンタルヘルスなどを電話で相談できるサービスがあります。保険会社によって異なりますが、24時間・年中無休で利用できるケースもあるので、非常に使い勝手の良いものとなっています。
また、電話相談のみならず、実際に心理カウンセラーと面談をして相談できるサービスもあります。人前に出ると緊張してしまう、寝つきが悪い、仕事のことを考えると憂鬱になってしまう、など面と向かって園長や上司に相談し辛いことを話せる窓口があるのは、職員が安心できる材料のひとつではないでしょうか。
サービスが利用できることは必ず職員全員(利用対象者)に周知する
この様なサービスを備えるときに重要なのが、必ず対象者の全員に内容を伝えることです。
どうしても、マウンティングやいじめ、パワハラなどは、【被害者を守る】という意識が強くなりがちですよね。
しかしながら、【加害者】もストレスや仕事への不満など、何かしら原因があって無意識の内にその様な言動をしている可能性があるため、両者のケアをすることが求められます。
また、目に見えて分からないものの、潜在的にメンタルヘルスの不調を抱えている方もいるかもしれません。そのため、【目に見えて病んでいる人】のような特定の職員ではなく、対象者全員に利用を促すことで良い環境作りができると考えられます。
2-1.事故が起きたときは保険を使い、職員・会社を守れる
ここまでは保険に付随するサービスを紹介してきましたが、ベースは【保険】です。
先ほども少し触れましたが、お仕事中のケガについては、労災の上乗せ保険で補償することができます。事故が起きたときは当然のことながら、政府の労災保険に申請をしなければなりません。
しかしながら、政府の労災は最低限の補償という観点のため、上乗せ保険が必要となるのです。
そして、労災事故が原因で、会社が訴えられてしまったときに備え、労災訴訟に耐えられる補償を用意することが重要です。
具体的な内容についてはこちらの記事で詳しく解説をしていますので、ぜひお読みください。
また、先ほど解説したサービス同様に、【しっかりとした保険に入っている】ということも職員の安心に繋がりますので、加入をした際はしっかりと周知しましょう。
セクハラ・パワハラなどで訴えられたときに会社を守る保険がある
セクハラやパワハラなどの告発ニュースを毎日のように耳にする昨今、保育園においてもその様なトラブルが起きることは大いに考えられます。
世の中全体が従業員を守る風潮にあり、インターネットで会社を訴える方法などを簡単に調べられるため、職員が当たり前のようにハラスメント被害を盾に会社を訴える、というケースも多く見受けられます。
この様なケースに備え、セクハラ・パワハラの訴えに耐えられる保険にも加入をしておくと良いでしょう。
詳しくはこちらの記事で解説をしているので、あわせてお読みください。
まとめ
この記事で紹介をした事柄以外にも、保育士がストレスを感じることは多くあるかと思います。
また、どうしても人手不足が話題に挙がってしまいますが、保育士の資格を持ちながら保育の仕事をしない、【潜在保育士】も多くいるようです。
なぜ、資格を持ちながら保育の仕事をしないのか、というとやはり【職場内の人間関係】が少なからず影響しているのではないでしょうか?その様な潜在的な保育士が進んで働けるような保育園が多くあれば、人手不足も解消でき、保育という仕事のイメージもより良い方向に向かうはずです。
この記事を参考に、保育士の不安を減らし、安心して働ける保育園を作って頂けると幸いです。