あなたは、自社で受け入れをするインターンシップ生が怪我をしてしまったとき、労災として認められるのかどうか、気を揉んでいるのではないでしょうか?インターンシップというと、無報酬であることや、職業体験、実習というイメージが強いために、『きっと労災にはならないよなぁ…』とマイナスな方向に考えがちですよね。
実はインターンシップ生の怪我は、条件によっては労災として認定されるケースもあり、それに加え損害保険各社で販売している労災の上乗せ保険で補償が可能な場合もあるのです。
この記事ではインターンシップ生の怪我が労災認定される条件や、実際に怪我が起きてしまった後にトラブルを避けるために、あらかじめ準備できることを解説していきます。これを知っているか否かで、インターンシップ生の受け入れにより前向きになれるはずです。インターンシップ制度を担当されている、人事・総務の方はぜひお読み下さい。
1.参加者が実質的に労働者であれば労災の対象になる
インターンシップ生の怪我が労災として認められる条件として、【参加者が実質的 に労働者であること】が挙げられます。なお、労働基準法により労働者の定義は原則として以下のようにされています。
職業の種類を問わず、事業または事務所に使用されるもので賃金を支払われる者をいう。
そのため、労働基準法の原則をそのままインターンシップ生に当てはめると、賃金(給料)を貰っていない場合は労働者にあたらず、労災保険の対象外となってしまいます。
しかしながら、インターンシップ生が労働者である、という判断をするための条件が行政通達により以下のように明らかにされています。
旧労働省(平成9年9月18日基発第636号)
一般に、インターンシップにおいての実習が、見学や体験的なものであり使用者から業務に係る指揮命令を受けていると解されないなど使用従属関係が認められない場合には、労働基準法第9条に規定される労働者に該当しないものであるが、直接生産活動に従事するなど当該作業による利益・効果が当該事業場に帰属し、かつ、事業場と学生の間に使用従属関係が認められる場合には、当該学生は労働者に該当するもの と考えられる。
※意外にも上記の通達には賃金の支払い有無については明記がありません。詳細については後ほど解説します。
内容を噛み砕いて解説すると、具体的には以下のような事柄から、労働者か否かを判断するようです。
- 参加者が企業から指揮・命令を受けており、使用従属の関係が認められるとき(作業の指示を断れない等)
- 参加者が本格的に業務をし、生産活動に従事している場合
- 一般の従業員の就業場所と区別されず、同じ場所で実習などが行われている場合
- 遅刻や欠席など、企業の規則に違反した場合に何かしらのペナルティを課す場合
ここで紹介したのはあくまで一例です。実際に事故が起きた際には、労基署が個別具体的に状況などを整理したうえで労災にあたるかどうかを判断します。そのため、万が一事故が起きてしまったときは企業側の独断で対応をせずに、労基署に相談をすることをおすすめします。
2.トラブルを避けるために受け入れ前に企業が準備・確認をしておくべきこと
インターンシップを受け入れる企業のほとんどが、学生(就職希望者や内定者)とのマッチングを図るためや、優秀な人材を確保するために、制度を活用していることかと思います。そのような環境下で、万が一の事故によるトラブルが起きてしまうと、企業・参加者の両者にとってデメリットしかありません。
ここからは事故によるトラブルを避けるために、企業が事前に準備・確認をしておくべきことを解説していきます。
2-1. アルバイトとして雇用して【労働者】にする
一般的に、【インターンシップは無償で行われるもの】という考えが多いために、
インターンシップ = 無償 = 労働者にあたらない → 労災保険の対象になるのか?
という悩みが生まれてしまいます。
しかしながら、1章で紹介した行政通達をもとにインターンシップ生の怪我が労災として認められた場合は、以下のような考え方になります。
労災認定される = 労働者にあたる → 賃金の支払い義務が発生
つまり、事故が起きてから労働者として扱い、賃金の支払いを決める、などの面倒な手続きが発生してしまいます。そのような事態を避けるために、発想を逆転させると、
といった考えになり、頭を悩ますことなく労災の申請が進められます。
インターンシップに、どの程度のコストを掛けるかにもよりますが、アルバイトとして雇用することは後々のトラブルを避けるための手段だと考えられます。また、インターンシップの内容を座学や簡単な研修にし、危険度の低いものにする、という方法も挙げられます。しかしながら、簡単な内容にすることで、企業・参加者の両者でやり甲斐のないものになってしまうことも予想できます。
どちらが良いかは一概に判断できませんが、後々掛かる手間と先に掛けるコストを天秤にかけ、しっかりと準備をすることが大切です。
2-2.労災の上乗せ保険でインターンシップ生の怪我に備える
もしあなたの会社が国の労災とは別に、各損害保険会社で販売している【労災上乗せ保険】に加入をしている場合、契約の内容によっては参加者の怪我に備えることができます。具体的には、補償対象者の人数を問わず、かつ名前の登録が不要(無記名)であるタイプの商品です。
一般的に、このような商品は補償の対象者を以下の3つに分けています。
区分1: 事業主・法人役員及び従業員の全員(正社員、パート、アルバイト、臨時雇いを問わず)
区分2: 建設業・貨物運送における下請負人
区分3: 1,2以外で企業の管理下にある人
実際にある保険会社に確認をしたところ、インターンシップ生は区分3で補償が可能であるという回答がありました。また、商品によっては国の労災認定を待たずに保険金を受け取れる可能性もあるため、有効に使えると考えられます。
既に労災上乗せ保険に加入している場合は上記の区分3の補償があるかどうかを確認するのが良いでしょう。
2-3.安全配慮義務違反に備え使用者賠償責任保険に加入する
インターンシップ生が、死亡してしまう、重い後遺障害が残ってしまう、といった重大な事故が起きた場合、企業が安全配慮義務違反を問われる可能性もあります。そのような場合、通常の労災事故とは比べ物にならない程の労力と費用を要します。
そのためにも、弁護士の手配や訴訟に掛かる費用、慰謝料などを補える使用者賠償責任保険に加入しておくことが必要です。
詳しくはこちらの記事で解説をしているため、あわせてお読み下さい。
2-4.参加者個人や学校で保険に加入をしているか確認する
参加者個人が怪我の保険などに加入している、大学や専門学校などの学校を通して保険に加入している可能性もあります。そのため、参加者を受け入れる際に保険加入の有無を確認しておくのも良いでしょう。
しかしながら、学校を通して保険に加入をしている際は注意が必要です。保険の内容によっては、学校経由で応募したインターンシップや、提携企業のインターンシップでしか使えないものがあり、企業が独自に受け入れた時は全く意味のなさない保険になってしまいます。
また、先ほど解説をした労災上乗せ保険への加入や、アルバイト雇用が難しい場合は、参加者個人に保険加入を推奨する、義務付けるなどの対策も有効だと考えられます。
まとめ
インターンシップ生の怪我が労災になるのか、また受け入れ前に企業が準備しておくべきことを解説してきました。
昨今、名ばかりのインターンシップや無償のインターンシップの問題点が指摘され始めています。知らないうちに違法なインターンシップを行ってしまっていた、ということが無いように、企業としてしっかりと準備・対策、内容の整理をすることが大切だと考えられます。