一定条件以上の事業場にストレスチェックが義務化されてから、早2年が経過しました。
一生懸命メンタルヘルス対策に取り組んでいる企業もたくさんあることでしょう。
ストレスチェックを拒否する従業員に対してどう接してよいのか頭を悩ませている人事・総務の方もいらっしゃるのではないでしょうか?
ご存知でしたか?
実は、会社はストレスチェックの実施が義務化されているのに対して、従業員にはストレスチェックを受けなければいけないとは義務付けられていないのです。
厚生労働省が発行しているストレスチェック導入マニュアルにも、次のように書かれています。
不利益取扱いの防止 |
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事業者が以下の行為を行うことは禁止されています。
① 次のことを理由に労働者に対して不利益な取扱いを行うこと ② 面接指導の結果を理由として、解雇、雇い止め、退職勧奨、 不当な動機・目的による配置転換・職位の変更を行うこと |
言い換えれば、従業員はストレスチェックを拒否できるとも言えます。
この記事ではストレスチェックを拒否する従業員に対して、どうすればよいのかを書いています。ぜひ、参考にしてください。
1.ストレスチェックを拒否した従業員を放置して良いのか
一応、一度は受けろと言ってあるし、従業員が拒否したから放置でいいだろう。
そう思うのですが、事はそう単純には進みません。
会社には、大前提として『安全配慮義務』を負うこととされています。
安全配慮義務とは平たく言うと、従業員がその生命、身体等の安全を確保しつつ働けるように配慮しなくてはならないということです。
この拒否した従業員が後々精神疾患を発症し労災認定を受けたとしましょう。
このストレスチェック拒否の放置はその際、安全配慮義務違反として責任は追及されないのでしょうか。
によると、受検の勧奨という項目があります。
Q5-1
事業者が行う受検勧奨について、安全配慮義務の観点からどのくらいの頻度・ 程度で受検勧奨するのが妥当なのでしょうか。A
受検勧奨の妥当な程度はそれぞれの企業の状況によっても異なると考えられます。 その方法、頻度などについては、衛生委員会等で調査審議をしていただいて決めていただきたいと思います。
ただし、例えば就業規則で受検を義務付け、受検しない労働者に懲戒処分を行うような、受検を強要するようなことは行ってはいけません。
要約すると、強要はダメだけれども、頻度はお宅の会社の裁量ですよ。と、スッキリしない回答をしています。つまり、これだけ言えば『あなたの会社は安全配慮義務の責任を追及されない!』と明確な答えが無いのです。
ですから、産業医をはじめとする衛生委員会と相談の上、勧奨回数や頻度を決めて奨めていくようにしましょう。
・ 受検拒否者に対する勧奨回数や頻度
をストレスチェックを事前にしっかりと明示しておくこと、勧奨を行った際はしっかりと記録に残しておくが大切です。
あの人だって拒否して放って置かれているのに、なんで私は毎日毎日『受けろ!』って言われるの!?というような状況だと、これはこれでまた別の労務問題が発生します。新しい制度を実施するにはあらかじめルール作りと周知が重要です。徹底するようにしましょう。
ご参考までに、ストレスチェックの受検者率が低い会社は労基署から指導が入るのかというと・・・
Q
受検率が低い場合、これを理由として労働基準監督署から指導されるといった ことがあるのでしょうか。A
労働基準監督署への報告は、ストレスチェック制度の実施状況を把握するためのも のであり、ストレスチェックの受検率が低いことをもって指導することは考えていません。
2.会社へストレスチェック結果の提供に同意しない人への対応は?
ストレスチェックを会社に義務化させていても、従業員本人が結果の提供に同意しなければ会社はストレスチェックの結果を知ることができません。ましてや、結果の提供の強制もすることもできません。
ストレスチェックを行う人(以降、実施者と呼びます)は、医師、保健師、厚生労働大臣の 定める研修を受けた看護師・精神保健福祉士の中から選ぶ必要があります。そして、ストレスチェックの実施者には守秘義務が課されています。
導入マニュアルには次のように書かれています。
本人が結果の提供をNO!と言ってしまえば、会社がストレスチェックを頼んだ実施者(主に産業医)に対して『あの子、どうだった?』と聞いても、うかつに実施者は内容を伝えることができないことになっています。
では、同意しないから会社は関与できないし、どうしようもない。やることはやったし・・・。
と、サジを投げてしまっても良いのでしょうか。
実はそれが一番大変危険であると考えています。
なぜかというと、結果の提供に同意しない理由の多くは自分が高ストレス者の判定がでる可能性があるとその本人が認識している、もしくはすでに精神疾患を患っている可能性があるからです。
逆に模範的な結果を出してくる従業員も要注意です。
なぜなら、国から推奨され広く一般的に使用されているストレスチェック調査票の点数計算方法などが、検索するといくらでも出てくるからです。対策しようと思えばそれなりに対策を取れてしまうものです。
結局のところ、ストレスチェックのような科学的なデータをひとつの補助ツールとして使い、常日頃から、従業員の行動や様子を注意深く観察すること、そして『ん?なにかおかしいな。』と思ったら、産業医等ときちんと連携して対処できるような社内体制を整えることが何よりも重要です。
くどいようですが、安全配慮義務は会社にはあるのです。
ストレスチェック制度実施だけでは、従業員の心の健康管理に配慮しているとは言い切れないのです。
正直会社からするとストレスチェックが義務化されてそれに伴い、付随する費用もかかっているのに何のための制度なのよ・・・年に1回、労基署に報告するだけのための制度なのか!という気持ちが強まってきているかと思います。
新しい制度なので、まだまだこれからも内容が整備されていくことと思われます。常に最新情報にアンテナを張るようにしましょう。
3.ストレスチェックだけでは万全と言えない以上、万一の備えが重要
ストレスチェックをきちんとやっているから、会社は安全配慮義務を果たしている!とは言えないのが現実です。結局のところ、労務のトラブル様々な角度から起こり得るのです。
長時間労働から生まれる過労死という言葉が産まれたのは、1978年と言われています。
それからもう早40年が経ちました。
今の日本で行われているのは『働き方改革』いう動き。
助成金事業も積極的に行われ、国が全力で推奨しています。
我が国は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面しています。
こうした中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。
改革の内容の具体例として、長時間労働の抑制、副業解禁、朝型勤務などが挙げられています。
その裏で、また一つ悲しいニュースがありました。
「時短ハラスメント」拡大の恐れ 毎日新聞
「仕事は早く終わらせろ、でも従業員は早く帰せと言われる。どうすればいいんだ」。うつ病で2016年12月に自殺し、労災認定された自動車販売会社の男性店長(当時48歳)は、妻にそうこぼしたという。
現場の声を的確に表現しているとSNSで話題になったサイボーズ株式会社のクラウドサービス『kintone(キントーン)』のポスターがそのままの話がニュースになったような気がします。ポスターをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。
長時間労働がダメならば、何も考えずに拘束時間を少なくすればよいでしょ?としてしまうと、これからもこのような悲劇が各地でおこっていくでしょう。
時代の動きや会社の業種・状況に合わせて、労務トラブルの内容も多種多様に変化します。
初めから労務関係訴訟はいつか必ず起こるものとして会社は心構えと備えが必要です。
弁護士さんはいくらかかるのでしょう?
負けたらどうなるのでしょう?
いくらぐらい準備しておけばよいのでしょうか?
資金が十分でない会社の場合、待ち受けているのは最悪な「倒産」の二文字です。
会社にたくさんお金がある企業は別として、資金に不安な会社には保険で備えるという手があります。
まとめ
ストレスチェックの制度はまだ始まったばかりの制度で、不完全な面がありこれからの制度であると言え、どうしたら良いのかわからない・・・といった会社がそれなりの数がいると思われます。
義務化されている事業場がストレスチェックを行わないと50万円以下の罰金となります。
ですから、年1回の労基署への報告は忘れず必ず行うようにしましょう。
法的義務ですし、罰則もある以上、よくわからない!と言って、やらない!というわけにもいきません。
わからないことがあれば、独立行政法人労働者健康安全機構に専用の相談窓口もありますので、積極的に相談するようにしましょう。
「ストレスチェック制度サポートダイヤル」
電話番号 : 全国統一ナビダイヤル 0570-031050
全国の産業保健総合支援センター : http://www.johas.go.jp/shisetsu/tabid/578/Default.aspx