あなたは近年、介護職でうつ病の労災申請が急増していることをご存知ですか?
【介護職の労災】というと腰痛や、移動中の事故など、身体的なものがイメージされます。
しかしながら、ここ数年深刻な問題として取り挙げられているのは、【精神疾患による労災】いわゆる、うつ病、メンタルヘルスの不調なのです。
仕事によるストレスが原因でうつ病等を発症した、と労災申請をした介護職員は2009年から2014年の5年間で2倍以上に増えたことが厚生労働省の統計により明らかになっています。
この事実は実際に現場で働く職員さんや、介護事業の経営者にとっては、大きな悩みのタネになるはずです。
もし、あなたの会社で働く職員さんがうつ病になってしまったとき、解決までの対策をあらかじめ把握しておけば、会社にかかるダメージを抑えることができます。
この記事では、うつ病発生から起こりうる負の連鎖から会社を守る対策を解説していきますので、ぜひお読みください。
1.うつ病発生!そこから始まる負の連鎖
介護業界でうつ病にかかる人が増え続けている原因は様々です。
慢性的な人手不足、不規則な勤務形態、職場での人間関係、利用者やその家族とのトラブル、などが挙げられるでしょう。
また、少なからず人の生死に関わる仕事であるため、職員に掛かる非常に責任が重く、大変な仕事であることから、プレッシャーに押し潰されてしまう人もいることと思います。
では、実際に職員さんがうつ病になってしまったとき、どのようなことが起こるのか、解説をしていきます。
1-1.職員が休職・退職せざるを得なくなる
職員がうつ病になってしまうと、その職員は休職や退職せざるを得なくなるでしょう。
なぜならば精神的に不安定な状態で、介護というリスクの高い仕事をやり続けていくことは非常に危険だからです。
万が一、【利用者が転倒し大怪我をする】などの介護事故が起きてしまったとき、『職員がうつ状態で不安定だった』では済まされず、会社が大きな責任を被ることが予想されます。
<うつ病は再発率が高いため、退職につながりやすい>
厚生労働省や日本うつ病学会などの統計によると、一度うつ病になってしまった人の再発率は60%と言われています。
さらに2回目→3回目は75%、3回目→4回目は90%とされています。
つまり、一度うつ病にかかり休職をしていた人が職場に復帰をしたとしても、再発の可能性は非常に高く、
最終的には退職せざるを得なくなる、ということが考えられます。
ここからは職員の休職や退職がどのようなことに繋がる可能性があるのか、見ていきましょう。
1-2.人手不足が事故や新たなうつ病を生み会社の存続を脅かす
大変残念な例えではありますが、介護職は3K(キツい・汚い・給料が安い)というイメージから新規採用が非常に難しいこと、離職率の高さなど、業界を取り巻く人手不足は深刻で、社会的にも改善が急務だとされています。
このように人手不足が大きな問題となっている介護業界において、職員の休職や退職は少なからず現場や会社に影響を与えます。
では実際にどの様なことが想定できるか、下記の図をご覧ください。
この図から【職員のうつ病】というひとつのマイナス要因が、いずれは会社にとって大きなマイナス要因になってしまうことがわかります。
そして最悪の場合、労災や介護事故が原因で会社が訴えられる、というケースも考えられます。
通常の業務に加え裁判の準備も…想像するだけでとても嫌な気持ちになりますよね。
うちに限っては大丈夫、という声が聞こえてきそうですが、労働者保護が大きく謳われている現代において、そのような考えは非常に危険です。
実際に安全配慮義務違反を会社に問う裁判は年々増加しており、企業側がしっかりと対策をしておく必要があることは明確です。
※詳しくはこちらの記事をご覧ください
2.負の連鎖から会社や職員を守るために保険を活用する
先に解説をした通り、うつ病による負の連鎖は職員や会社に大きなダメージを与えてしまいます。
ここからは負の連鎖から職員や会社を守るための方法を紹介していきますので、ぜひお役立てください。
2-1.仕事によるうつ病は労災申請をする
うつ病が発症する原因は様々ですが、【仕事によるうつ病】は労災として認定されるケースが年々増えています。
恐らくほとんどの方は健康保険を使って治療を受け、場合によっては傷病手当金の請求もしているかと思います。
しかしながら前述の通り、仕事を原因とするうつ病は労災として認定されるため、職員から『うつ病になってしまった』と申し出があったときは労災の申請も視野にいれておくべきでしょう。
ただし、うつ病が労災として認定されるためにはいくつか条件があったり、認定までに時間を要したりするため、あらかじめ申請の方法やメリット・デメリットを把握しておくことをおすすめします。
※詳しくはこちらの記事をご覧ください。
また、うつ病を労災申請したい、と依頼があったときに会社の独断で『労災ではない』と判断することは避けるべきです。
発症したうつ病が労災かどうか判断するのは労基署ですので、面倒であっても労災申請の手続きを進めましょう。
<職員を安心させトラブルを避けるために申請をする>
なぜ会社がうつ病の労災申請を協力する必要があるのかというと、ズバリ職員を安心させるためです。
申請書類の作成や手続きの手助けなどをすることで、『会社はしっかりやってくれる』という姿勢が見え、後々のトラブルを回避できる可能性もあります。
労災申請に協力しなかったがために、『仕事のせいでうつ病になったのに!訴えてやる!』など余計なトラブルに発展しかねません。
労災申請にかかる手間と、万が一訴えられたときにかかる手間を天秤にかけたとして、会社が選択すべき対応は【労災申請】だと考えられます。
とは言え、労災申請を進めてみたものの、それだけでは事態が収まらず会社と職員の間でトラブルになってしまうこともあるかもしれません。
では、そのような事態には会社としてどう対応をしていくべきなのか、続けて解説をしていきます。
2-2.民間の保険で職員や会社を守る
うつ病を原因として職員と会社がトラブルになるケースは様々です。
ここでひとつ実際の事例を紹介します。
※2014年5月8日:ケアマネタイムスより引用・抜粋
岡山県のデイサービスセンターに勤務していた男性職員(当時42歳)が2007年にうつ病の末に自殺をしたのは、同センター上司のパワーハラスメントが原因だとして、職員の遺族が勤務先に対し、5,000万円の損害賠償を求めた。
岡山地裁の判決によると、自殺をした職員は2003年から利用者の送迎や介護を担当していた。
その翌年から、上司の女性生活相談員が過去における仕事上のミスについて何度も繰り返し持ち出し、職員会議など大勢の目の前で『何でできないの!』などしつこく叱責するようになったとされる。
このことから精神的に落ち込み、2007年4月ころにうつ病を発病し、同年9月、妻に『上司に人間失格とか言われ、きつくこたえました。ダメな亭主でゴメン』などとメールを送り、その直後に岡山県内の河川敷でガソリンを頭からかぶって焼身自殺に至った。
裁判所は、パワハラと自殺の因果関係を認め、業務上の死亡として遺族の請求通り、5,000万円の支払いを命じた。
この裁判では、『業務以外に発症をうかがわせる事情が無く、病気により自殺したと推定できる』と因果関係を認定した。
この事例は一家の大黒柱であり、働き盛りの男性が仕事(うつ病)を原因として自らの命を経ってしまった、というとても痛ましいものです。
ここまでの解説でお分かりの通り、仕事が原因である場合、当然会社が負う責任はとても大きくなります。
もしあなたの会社で同じようなことが起きたとき、遺族とどう向き合うでしょうか?
2-3.労災上乗せ保険で労災訴訟に備える
万が一、職員が過労などによるうつ病で自殺をしてしまった場合、労災として認定されれば会社で加入している政府の労災保険から補償を受けることができます。
しかしながら、政府の労災は労働者保護の視点から、最低限度の補償しかされないと言っても過言ではありません。
さらに、労災保険では『慰謝料』や『逸失利益』の補償がないため、仮に遺族から慰謝料を請求されたとすると、会社が全てを被ることになり得ます。
実は、このようなケースには労災の上乗せ保険で対応をすることができるのです。
職員、遺族とトラブルになるケースが大変多くなっている昨今、企業防衛の一環として加入をしておくのが得策でしょう。
※この保険の必要性や選び方のポイントについてはこちらの記事をご覧ください。
2-4.パワハラなどによる訴訟にも保険を活用する
先ほどの事例で解説をした通り、職員がうつ病を発症したのは上司によるパワハラが原因だとされています。
職員が自殺や過労死してしまう、遺族などから訴えられるケースに加え、『パワハラのせいでうつ病になった』という訴えが起こることも考えられます。
ウェブで様々な情報を簡単に入手できる時代ですし、世の中全体の風向きが労働者寄りである現代において、労働者はいとも簡単に会社を訴えてきます。
また、当然のことながら、訴えが起こればそれに対応するため弁護士費用・和解金、示談金など考えるだけで頭が痛い費用が発生してしまいます。
そのような事態には【雇用慣行賠償責任保険】で対応をすることができます。
※詳細についてはこちらの記事をご覧ください。
まとめ
この記事で解説をした通り、『労務トラブル』が増え続けている今日では、会社が職員を守ること、そして会社自体を守ることが求められています。
特に介護という仕事は、体力的にも精神的にも大きな負担がかかるため、今後もトラブルが増加の一途を辿ることは想像しやすいことです。
また、このような時代背景も相まって、企業防衛のために保険を導入している企業も増えています。
あなたの会社で働く大切な職員を守るため、また会社自体を守るため、この記事を参考に、対策・働く環境作りをいち早く進めることをおすすめします。