労災保険

介護施設での火災に備え、会社が入るべき3つの保険

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あなたが運営する介護施設では、万が一施設内で火災が起きたときに備え、しっかりと保険に入っていますでしょうか?火事であれば、『火災保険に入っておけば大丈夫』と考えがちですが、実はそう単純では無いのです。

もし利用者の誘導が上手くできず、逃げ遅れて死亡してしまったら、利用者の救助をしていたスタッフが全身に火傷を負ってしまったら、近隣の民家までにも火の手が廻ってしまったら、想像するに堪えないことですが、多方面から会社としての責任を問われる事態が予想されます。

その様なときに、会社が被る損害を火災保険だけで全てをカバーできるか、これは不可能といっても過言ではありません。

もちろん、火災保険にしっかりと加入をしているのであれば、建物や造作、設備に対しての補償は受けられるでしょう。しかしながら、利用者さんやスタッフに対しては別の保険を用意し、会社を守る必要があるのです。

この記事では、施設で火災が起きた時に備えどの様な保険に加入しておくべきか、解説をしていきます。

既に何かしらの保険に加入している方は内容を整理するために、保険に加入をしていない方はしっかりと会社を守るために、どちらの方もぜひお読み下さい。

1.火災保険で施設や設備を守る

介護施設での火災に備え、まず必要なのが火災保険です。恐らく、ほとんどの施設で既に火災保険に加入をしているかと思いますが、ここではしっかりとした補償を用意し、会社の財産を守るコツを解説していきます。

1-1. 新価払いで実態に沿った支払い限度額を設定する

火災保険に加入をする際、特に気をつけたいポイントは、2つあります。それは、【保険の支払われ方】と【支払い限度額の設定】です。

【保険の支払われ方は新価払いに設定する】

一般的に、火災保険では受け取る保険金の支払い方法を、【新価払い】【時価払い】の2つから選ぶことができますが、契約をする際は特別な事情が無い限り【新価払い】をお勧めします。

時価=消耗した分を差し引いた金額
新価=同等の建物を用意するために必要な金額

【支払い限度額も新価基準で考える】

保険の対象が建物であっても、設備であっても、それぞれ同等のものを新しく用意をするときに必要な金額で補償を付ける必要があります。固定資産台帳などで入手時の金額が確認できれば、その金額を設定するのが実態により近い金額と言えます。

先ほど解説をした【新価払い】であっても【時価】で補償金額を設定してしまうと、結果的に時価額までの補償になってしまうので、しっかりと確認をしましょう。

しかしながら、中古で建物を購入し、正確な金額が分からないときは保険会社による評価を利用し、補償額を設定することができます。この評価は所在地・面積・構造といった比較的簡単な情報があれば可能です。また、施設の規模によっては保険会社から専門家を派遣し、現地を確認したうえで評価をすることも可能です。

※この場合、保険会社によって評価に必要な情報はそれぞれですので、見積りを依頼する際に確認し、事前に準備をしておくと良いでしょう。

なお、建築年数や構造、立地によっては新価で契約ができず、時価でしか契約ができない可能性もあります。例えば、築50年以上の木造建築物などの場合、リスクが高いと見られてしまいます。この基準は保険会社によって異なるので、ひとつの保険会社に断られても諦めず、複数の保険会社に問い合わせしてみましょう。

適正な支払い限度額を設定することにより、過剰な補償(余分な保険料の支払い)を防ぎ、事故時に備えてしっかりとした補償を用意できます。

1-2.複数の施設がある場合は掛け漏れが無いようにする

あなたが複数の介護施設を運営しているときは、保険の掛け漏れが無いように注意をしましょう。万が一保険を掛けていない施設で火事が起きても、当然のことながら補償を受け取ることができません。掛け漏れを防ぐ方法として、【同一の保険会社でひとつの契約にまとめる】ことが挙げられます。

例えば、

  • 神奈川県のグループホーム

保険の期間:平成30年1月1日~平成31年1月1日

保険会社:ABC損害保険

  • 東京都のデイサービス

保険の期間

平成30年4月30日~平成31年4月30日

保険会社:○×△損害保険

  • 大阪府の有料老人ホーム

保険の期間

平成27年6月1日~平成30年6月1日

保険会社:いろは損害保険

この様に、保険の期間も保険会社も異なると、契約の管理やどこの誰に連絡をすれば良いのか、把握をするのが面倒ですよね。契約の更新をしたつもりの施設が、実は違う施設と勘違いをしていて、更新ができていなかった、なんてことがあると非常に危険です。

また、同じ敷地内に複数の建物があるときも漏れが無いように注意が必要です。

例えば、利用者が居住をする施設は保険に加入しているが、あとから建てたリハビリ専用施設は保険が掛かっていない、などが予想されます。この様な掛け漏れを起こさないためにも、バラバラの契約は可能な限りひとつの契約にまとめることがポイントです。

1-3. 地震・噴火・津波を原因とした事故にも備える

通常、施設向けの火災保険では、地震・噴火・津波といった天災による事故の補償はありません。そのため、オプションを付け加え、天災による事故に備えることができるようにする必要があります。

地震の発生確率が年々上昇していること、天災による被害を自社で補てんするのが難しいことから、自社の財産に地震保険を掛けることは非常に重要だと言えるでしょう。

なお、契約が可能な条件、支払われ方などは保険会社によって様々です。補償の仕組みや、加入方法などはこちらの記事で詳しく解説をしているので、あわせてお読み下さい。

法人の企業向け地震保険の加入したい理由とメリット(地震拡張担保特約)

2.火災による利用者の死傷、近隣の被害には賠償責任保険で備える

大変残念なことではありますが、介護施設で起きた火事により死傷者が出てしまったケースもあります。ここで、実際の事例をひとつ紹介します。

朝日新聞デジタル 2018年2月2日の記事より引用

https://www.asahi.com/articles/ASL2152S5L21TOLB00C.html

長崎市の認知症高齢者グループホーム「ベルハウス東山手」で2013年2月、入所していた高齢者5人が死亡、5人が重軽傷を負った火災で、業務上過失致死傷の罪に問われた施設の運営会社元代表、桝屋幸子被告(66)の判決が1日、長崎地裁であった。小松本卓裁判長は禁錮2年執行猶予4年(求刑禁錮2年)を言い渡した。

桝屋被告は消防法令で定められたスプリンクラーを設置していなかったとして在宅起訴された。弁護側は公判で、スプリンクラーの設置について「消防から問題を指摘されたことはなく、設置義務があると認識していなかった」などと主張していた。

判決は、道路に面した出入り口が2階にしかなかったことや、自立歩行が困難な認知症高齢者が多く住んでいたことから「火災になった際の危険は容易に予見でき、スプリンクラーを設置しなかったことがやむを得ないとは到底考えられない」と指摘。「火災が起こることはないなどと安易に考え、漫然と施設の運営管理をした結果は重大。被害者、遺族らの無念さは察するに余りある」とした。

あってはならないことですが【火災が起こることはない】という言わば一方的な思い込みにより起きてしまった大変悲惨な事故です。残された遺族に『大切な家族になんてことをしてくれたんだ』という感情が産まれるのは想像し易く、その矛先は運営者に向けられます。

大変嫌な話ではありますが、賠償金を請求され、場合によっては裁判に発展し、対応に追われることになってしまうかもしれません。この様な事態には施設の賠償責任保険で備えることができます。

恐らく、介護事故が起きた時のために役所から加入を義務付けられたり、加入をしているかどうか確認をされたりしているかと思います。ほとんどの場合、介護事故のみならず、施設が原因で起きた事故について補償がされるものです。その為、施設側に落ち度がある事故によって払うべき損害賠償金や裁判費用などはこの保険で備えることができます。

【既に加入をしている場合は支払い限度額に注意する】

まず支払い限度額ですが、結論から申し上げますと最低でも1事故につき1億円以上の補償をお勧めします。そう簡単に人の命に値段を付けることはできませんが、もし火災が起き、利用者5名が亡くなってしまったとき【1事故につき1,000万円の補償しかなかった】とすると、これが十分な補償かどうかは一目瞭然かと思います。もし開業する際に最低限の補償で保険に入ったまま、ということがあれば今すぐに補償の見直しをしましょう。

また、火の手が近隣の家屋まで廻ってしまった、というときも賠償責任保険で対応できる可能性があります。もし近隣に飲食店などがあり、火事により営業ができなくなったときの休業補償などを要求されたときにも、賠償責任保険で補償できる可能性があります。

3.火災によるスタッフのケガは労災保険で対応する

介護施設を経営していくなかで、働き手はとても大切な存在だと言えるでしょう。

従業員、アルバイト、パート、派遣社員、様々なスタッフが施設の屋台骨になっていると思います。大切なスタッフが火災によりケガをしてしまったとき、万が一亡くなってしまったら、その様なときに備え労災保険を用意しておきましょう。

3-1.国の労災保険に加え、上乗せ保険で十分な補償を用意する

まず前提として、会社としてひとりでも人を雇うときには労災保険(いわゆる国の労災保険)への加入が必須です。

しかしながら、国の労災保険は労働者保護の視点から、最低限度の補償しかされないと言っても過言ではありません。例えば、休業補償であれば8割までしか補償されませんし、万が一スタッフが亡くなるような事故が起きても慰謝料や逸失利益などは補償の対象となりません。

また、役員・事業主の方は特別な加入手続きをしない限り、残念ながら国の労災保険の補償外になってしまいますが、労災の上乗せ保険で補償の対象にすることができます。役員や事業主の方が介護の現場に立つことも少なからずあるかと思いますので、上乗せ保険に加入し、万が一の事故に備えたいものです。

【労災の上乗せ保険は必ず全員が補償されるものに加入する】

介護施設ではアルバイト、パートなどスタッフの入れ替わりが激しいことが考えられます。労災の上乗せ保険に加入をする際は、掛け漏れがなく、全てのスタッフが補償の対象になる保険に加入をしましょう。加入する際のポイントなどはこちらの記事をご覧下さい。

※参考:労災の上乗せ保険があらゆる業種で必要な理由とその選び方

労災の上乗せ保険が様々な業種で必要な理由とその選び方

3-2.労災訴訟には使用者賠償責任保険で備える

施設で大規模な火災が発生したときに、万が一スタッフが亡くなってしまう、全身に火傷を負って重い後遺障害が残ってしまった、というケースも考えられます。そのような場合には会社の安全配慮義務が問われ、労災訴訟に発展するかもしれません。

安全配慮義務違反の判例でわかる会社と従業員のホンネ

安全配慮義務違反の判例でわかる会社と従業員のホンネ

こちらの記事でも解説をしている通り、会社は法律によって働く人の安全を守るよう、義務付けられています。

 

例えば、

●会社が施設の点検を怠りスプリンクラーを設置していなかった、

●人手不足により夜勤時のスタッフが確保できず、スタッフが1人で大勢の利用者を介護していた、

この様な実態が明らかになってしまうと、会社は安全配慮義務を全うしていない、という判断が下され、巨額の損害賠償を請求される、裁判費用の負担、風評被害による売上減、など会社にとって非常に大きな痛手を負うことになってしまいます。

先ほど解説をした通り、国が用意する労災保険では【慰謝料】や【逸失利益】といった補償がありません。

もし数千万から億単位の賠償命令が下ったとき、お金をすぐに用意できるか、というとほとんどの会社の答えは『用意ができない』だと思います。

このような高額な賠償金を負わなければならないケースには、使用者賠償責任保険という保険で対応ができ、主に労災の上乗せ保険のオプションとして損害保険各社から販売されています。 【労災訴訟】というキーワードをよく耳にする今日において、会社が加入しておくべき保険のひとつと言えます。

詳しくはこちらの記事をお読み下さい。

使用者賠償責任保険が会社の企業防衛のために必要な理由

まとめ

介護施設で火災が発生したときに起こりうる問題とそれに対する保険を解説してきました。

記事の冒頭でもお伝えをした通り、火災=火災保険という固定観念は施設を運営していくなかで非常に危険な考えだと言えます。もちろん、建物や設備など貴重な会社の財産を守ることは大切です。

しかしながら、【施設】というひとつのカテゴリではなく、【会社全体】として抱えるリスクを今一度整理し、保険の加入有無や補償の内容を見直すことが重要だと考えられます。

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